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2012-09-05 00:00
(連載)オバマ政権のアジア・シフト政策は日本の国益に反する(3)
河村 洋
外交評論家
これまで述べてきた論点が「アジア太平洋地域への関与を強化すると言いながら、そのために必要な軍事力は縮小する」というオバマ政権のアジア戦略の矛盾を理解する鍵となるであろう。オバマ政権は中国やその他の戦略的敵対国との地政学的な競合に考慮を払っているかも知れないが、場合によってはこうした勢力との妥協どころか、宥和さえいとわないであろう。尖閣諸島をめぐる衝突は典型的な事例である。7月の時点で国務省は「中国による圧力は日米安全保障条約に基づいて日本への攻撃と見なす」と表明した。しかし8月16日の記者会見では国務省のフィリップ・クローリー次席報道官は「尖閣諸島が日本の実効支配下にある限り安保条約が適用されるが、領土の主権に関してアメリカは中立の立場を保つ」と述べた。さらにビクトリア・ヌーランド国務省報道官は「尖閣諸島の主権については、日中両国が二国間交渉を行うように」と促した。2010年の衝突の際にリチャード・アーミテージ元国務副長官が「アジアのシーレーンに対する中国の野望を挫くために」日米合同の軍事演習さえ提案したことに鑑みれば、これは大きな後退である。
アジア重視の背景としては、マーク・レナード氏が先の論文で述べた「アメリカのアジア化」も見逃せない。私はいかなる人種差別も、自民族中心主義も、支持はしないが、この問題をポリティカリー・インコレクトで冷徹なリアリストの視点から議論する必要がある。アメリカ政治でアジア系の声が高まれば、「反日」的な運動の影響力が強まる。その典型的な事例は、マイク・ホンダ下院議員による慰安婦問題の決議案である。よく知られているように、日本にとって先の大戦をめぐる歴史認識は、中国および韓国との関係で一歩間違うと厄介な問題である。「アジア化したアメリカ」では中国系および韓国系のロビー活動が一層活発になるであろう。
ピュー・リサーチ・センターが最近行なった調査によると、アメリカの人口に占めるアジア系の割合は増加し、その中でも中国系およびその他のアジア系の人口は、日系アメリカ人の人口を大きく上回っている。さらに重要なことに、日系アメリカ人は戦中の強制収容の経験から日本との連携には消極的なのに対し、中国系と他のアジア系は祖国のためのロビー活動に熱心である。実際にホンダ下院議員は、日系よりもアジア系の利益のために活動している。ホンダ氏が選出された連邦下院選挙のカリフォルニア第15選挙区は、全米でもトップ10に入る所得水準の高い選挙区だが、その中ではマイノリティーの有権者数が多数を占める唯一の選挙区である。アジア系の有権者は全体の29.2%を占める。ウィキペディア日本語版によると、産経新聞の古森義久氏をはじめいくつかのメディアがホンダ氏のファンドレイジングは中国系と韓国系におおいに依存していることを報じている。最近の中国および韓国との領土問題をめぐる衝突、そして慰安婦問題をめぐる韓国との対立を見れば、アメリカでアジア系ロビーの影響力が増大すればするほど、日本の国益が損なわれるであろう。
日本人の中には、中国恐怖症にとらわれるあまりに、アジア・シフト戦略の深い内幕を何も考えることなく、純朴にそれを歓迎する向きもある。しかしながら、我々日本人は、マーク・レナード氏が述べたような「ヨーロッパ人の懸念」を共有すべき立場にある。米国外交の新興経済諸国へのシフトとアメリカ社会のアジア化は、日本にとって深刻な問題である。また、新たに台頭する挑戦国や敵対国の危険な野望を阻止できるのは、地域別の優先順位を示す文言ではなくアメリカの真の強さと超大国の役割を貫徹する意志である。アメリ力の世界戦略がケネディ・マクミランおよびレーガン・サッチャーというコンビに代表されるアングロ・サクソン同盟に基づいていた時期は、日本にとってどれほど素晴らしかったことか。そうした理由から、日本に対する不適切な発言があったものの、ミット・ロムニー氏の方がバラク・オバマ氏よりも日本の国益にとって好ましいと考えている。「ヨーロッパ人の不安」に強く同意する日本人として、私は間違っても軍事力の裏づけもなく、中味もない、オバマ政権のアジア・シフト戦略を平伏礼賛しようとは思わない。(おわり)
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