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2012-09-06 00:00
尖閣購入の裏に野田・石原極秘会談
杉浦 正章
政治評論家
つくづく「慎太郎も役者じゃノウ」と思う。弟の裕次郎を上回るくらいだ。政府による尖閣諸島購入合意を聞いて、9月5日“寝耳に水”を装ったからだ。「そんな馬鹿な話があるか」と怒っても見せた。一方で即座に寄付金16億6千万円を「国に譲渡する」と宣うた。内心集まりすぎて対応に困っていた様子がありありだ。渡りに船でほっとしたのが本心だろう。もう一つほっとしたのが、中国政府だ。共産党大会を控えて日本との関係をこじらせれば、首脳人事の移行期でただでさえ厳しい権力闘争が繰り返されている状況にも影響が出かねない。奇妙なことに、国の買い上げは、極右の都知事・石原慎太郎と中国政府の双方の安堵の胸を撫で下ろさせたのだ。そもそもワシントンで石原が唐突に購入を発表した時から無理があったのだ。「尖閣諸島は東京都が守る」などと石原は、都が“武装”しかねないような荒唐無稽な発言を繰り返した。石原の発言は尖閣問題の寝た子を再び揺り起こし、中国人の上陸、繰り返される反日デモという事態を招いた。すべて近視眼の1自治体の長が挑発に挑発を重ねた結果である。おまけに国民の素朴な愛国心を刺激して、都には4日現在で10万1397件、計14億6395万5053円の寄付金が集まった。
石原の狙いは、最終的にはナショナリズムをあおって、持論の日本核武装化を実現するところにあるのだ。だが、事態の混乱は振り上げた拳をどう降ろすかというところに到達した。こうした中で、8月19日の日曜日に首相・野田佳彦と石原の秘密会談が首相公邸で行われた。首相番記者を「一日来客なし」とだましたうえでの長時間の会談である。たちあがれ日本幹事長の園田博之の仲介といわれる。なぜ野田が会談したかというと、言うまでもなく尖閣購入問題である。ここで野田は国が購入する方針を伝え、もともと最終的には国の所有が適切としてきた石原も了承、協力を約束したのだ。その際石原は、協力の条件として漁船の待避施設などの整備を要求した。石原は「零細漁民を助けるため」としているが、あくまでも、日本の領有権の証を中国向けに打ち立てたいのが本心なのだ。しかし、これ以上日中間に波風を立てたくない野田は、これを拒否した。石原は渋々引き下がったのだ。
また、石原は野田に買うなら集まった寄付金以上の額で買うように求めた模様だ。会談を基に野田は8月末、外務副大臣山口壮を中国に派遣、国務委員・戴秉国に「国が購入する方針だが、これは石原の動きを押さえ混乱を回避するための措置でもある。建造物など建てないという従来の方針は変えない」などの方針を伝えた。中国側にしてみれば「まだ体制が固まらないうちに、これ以上石原の扇動に乗っても利はない」と判断した材料になっただろう。こうした経緯の上で政府は20億5千万円で地権者との間で購入に合意した。石原は集まった寄付金より高いことを理由に引き下がることが出来たわけだ。政府は振り上げた拳を降ろさせることに成功したことになる。石原が寄付金の扱いを聞かれて即座に国への譲渡を口にしたのも、予想外の寄付金が集まり、処理に困っていた事の証拠であろう。もちろん2000万円もかけて尖閣に調査船を出したのも、国の購入を察知しながらのポーズに過ぎなかったわけだ。石原の老獪(かい)さは並大抵ではない。
一方中国政府は、外務省の副報道局長・洪磊(こうらい)が5日「釣魚島が日本領土との主張には全く根拠がない。いわゆる『国有化』の動きは中国の領土主権を著しく損ねた。日本に、中日関係をどのような方向にしたいのか問いたい」と憤ったが、こちらもこれ以上尖閣問題であおるわけにはいかない事情がある。冒頭述べたように共産党大会を控え、国内の混乱を放置すれば、共産党政権がゆゆしき事態に追い込まれかねないのだ。今後購入が具体化するにつれて、一時的なデモや反発が生ずるだろうが、中国政府は基本的には沈静化の流れだろうと思う。おそらく香港の活動家の「10月上陸」も許可しまい。許可すれば今度は海上保安庁に検挙を可能にした改正海上保安庁法が成立しており、ゆゆしき対立に発展する可能性がある。日本政府も石原の扇動という“夾雑物”をとりあえず除去できたうえに、紛争の焦点の島々を私有地のまま放置するという不安定さを解消できた。安定管理への道を開いたのだ。これまた当分中国を刺激せずに事態沈静化を進めるだろう。政府と地権者の契約期限切れは3月だが、野田が購入を急いだのは、習近平が3月の全国人民代表大会で国家主席に選ばれる時期と合致することにある。就任早々だから、習に強く出る口実を与えることになる。尖閣問題を習の最初の仕事にしてしまわないための思惑がある。
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