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2012-09-10 00:00
「あまりにも『2国間関係』でのみ捉えていないか」を読んで考えたこと
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
9月7~8日の本欄に掲載された高橋敏哉氏のご意見、北東アジアの国際安全保障問題として尖閣問題、竹島問題を「あまりにも『2国間関係』でのみ捉えていないか」は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)中断、オーストラリアとの縁、ということでは筆者の経験とも重なり、興味深く拝読した。高橋氏は「随想的ーー投稿の質を落としてしまわないかーー(しかし)肌で感じることや、ある種の直観的なものの中に、ヒントや真理が含まれているかもしれない」と謙遜気味だが、玉石混交の投稿が飛び交う本欄では、極めて有用、有益、かつ新鮮で啓発されること大である。
高橋氏が指摘する「中国、韓国に比べ際立つ日本の存在感の薄さが、ーーもし他国でも同じような状況が進めば、日本の国益に関する『国際世論』の形成にも大きく影響を与えていく可能性は否定できない」は、オーストラリアという場を借りた、実に普遍的な議論だと、わたしは解釈した。「『国際世論』の形成力も、ジョセフ・ナイのいうソフト・パワー、スマート・パワーの一例」も同感である。ウラジオストク・アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日ロ首脳会談で、またしても行方が注目されたのが北方領土問題。これも「あまりにも『2国間関係』でのみ捉えていないか」と筆者は懸念する。スターリン、ルーズベルトの「ヤルタの密約」に基づくソ連(当時)の強行行為の結果が、北方領土問題。米英の参戦要求につけ込んだ狡猾なスターリンはともかく、ルーズベルト、チャーチルも決して”世界平和の使徒”でなかったことが、いまや本国でも指摘される。さらに東西冷戦終結こそが、グローバルにはこの「ヤルタ体制の終焉」にほかならないはず。ロシアの不法占拠追及はもちろんだが、米国にもその歴史的過ちと反省を求め、「国際世論」の後押し役に向わせることこそ、日本にとって真の同盟国、また米国が言う「トモダチ」ではないか。
ところで高橋氏の言うオーストラリアは、米英両国、英連邦諸国と直結し、ニュースも常にわが事で報じられる。だが、かつてはその他の国々について、よそ事、見当違いが実に多かった。典型が1960年代、隣国インドネシアのスカルノ大統領の西イリアン(現パプア州)併合の際、「スカルノがわが国を南イリアンと呼んだ。スカルノはオーストラリアにも領土的野心がある」と騒いだ報道。しかし、この十数年、中国、韓国の急速経済成長の波はオーストラリアにも押し寄せ、人的、物的での両国の存在感はすさまじい。大都市シドニー、さらにニュージーランドのオークランドには、一見アジア世界と見まがう地域が広がる。これらのシンボリックな事象は1997年、香港の中国返還を嫌った香港市民の大量流入と、2000年シドニー五輪が重なる。五輪開催都市シドニーの市長は当時、中国系だった。またケビン・ラッド前連邦首相は流暢な中国語を話す。ラッド前首相出身地クインズランド州は亜熱帯で、かつては一大サトウキビ栽培地帯。歴史的には合法移民とともに、不法入国の中国人が労働力として多数存在した。筆者の知るオーストラリア外交官にも、これらの中国人をルーツとする人物がいた。
しかし、それでも、この南半球の地で日本の印象が、まったく消えたわけではない。かつて本欄に寄稿した筆者の「民主党政権移行の混乱模様は、藤村の『夜明け前』に酷似」では、オーストラリア主要紙「The Australian」で、外交専門記者が日本の総選挙結果は自国にも大いに影響をもたらすと分析したこと、さらに「明治維新や戦後経済復興期に匹敵する重要な転換点を迎えた」と伝えていることを指摘した。実は当時誕生した民主政権新首相のファミリーには、オーストラリアの血脈が存在したこともあって、このような”壮大な論”が登場したといえなくもない。だがそれにしても、アジアの経済大国日本との共存という国家利益を早速皮算用する南半球国家の姿でもあった。日本に対する、こうした姿を素早くキャッチして吸い上げる姿勢が、わが国にも欲しいものだ。その日本でも、芸能業界は世界同時進行の波に乗っているほどだから、国民自体に才覚がないわけではないはずだ。
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