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2012-09-14 00:00
「得寸進尺」の隙を中国に与えてはならない
北原 二郎
会社員
2012年春に明らかになった東京都による尖閣購入計画は、これまで無作為を繰り返してきた政府を突き動かし、「安定的かつ恒久的管理」のための国有化という結果をもたらした。それ自体は評価されようが、残念ながら東京都の石原都知事が求めていた恒久的な「船だまり」「灯台」等の設備は建設せず、政府は現状のまま維持する方針とのことである。私が現在居住している中国には「得寸進尺」という四字熟語がある。「こちらが一歩妥協すれば、相手はさらに付け入る」という意味であり、日本による尖閣諸島への実効支配強化につながる動きがある度に、中国マスコミで多用されている。1979年に日本がヘリポート建設を計画したが、中国の抗議により撤去させられたという苦い経験がある。これ以降、日本の領土であるにも関わらず、防衛のための構造物も無い状態で、「日本固有の領土」と主張するのみの「現状維持」を続けて来た。換言すれば実効支配が骨抜きにされて来たのである。こうしたことが、尖閣諸島領有を虎視眈々と狙う中国に軍事力増強の時間的猶予を与える結果となってしまった。
では尖閣国有化を経て、日本がとるべき次の一手は何か?8月の香港の活動家の尖閣上陸から国有化を巡る動きの中で、中国が取った対応から、彼らにとって最も好まざること、つまり日本がとるべき次の一手は何かを読み解くことができる。まず8月の尖閣諸島への香港の活動家上陸以降の、躊躇いさえ感じられる中国の報道姿勢からは、これ以上の強硬姿勢をとることが、日本世論を刺激して、「船だまり」「灯台」等の構造物構築などの実効支配が進むことを恐れている節が読み取れる。逆に興味を引くのは、9月11日の国有化以降、当面の交渉相手が現在の民主党政権と日本外務省であると明白になって以降、「国有化」を「非合法で無効であり、撤回せよ」と非難のトーンを上げてきていることである。これは「中国国内世論向け」のパフォーマンスであろう。ここ数日の動きとして、2つほど挙げてみたい。(1)「わが国は尖閣諸島周辺の領海を次のように宣告する」として、尖閣諸島の周辺に東経と北緯を明記して、領海であるとの主張をしたこと。(2)「中国軍は相応の措置をとる権利を有す」と宣言したこと。ともに、潜在的にはらむ危険と中国の深謀遠慮に気づくべきである。
そもそも1895年に日本は、尖閣諸島を沖縄に編入した際、現地を調査し清国の支配が及んでいないことを確認して領有、ここに国際法でいう「先占」の原則が成り立つ。これが日本側の一貫した主張である。ところが、現在「船だまり」も「灯台」の設置もできないという尖閣諸島の現状を中国が日本に「維持」させている狙いは、将来中国が尖閣諸島に上陸した暁に、「現地を調査し日本国の支配が及んでいないことを確認し領有。ここに国際法でいう『先占』の原則が成り立つ」と主張できるような、つまり日本の実効支配が及んでいないと主張できる余地を残しておくためと言えないだろうか。1978年に百隻の漁船を送り込んできたことも忘れてはならない。既に1992年に中国は「中華人民共和国領海及び接続水域法」を成立させ、尖閣諸島を「領有」している、と明文化している。そこに加えて今回の領海の宣告である。これ以上「得寸進尺」の隙を中国に与えてはならない。「船だまり」「灯台」は当然のこと、防衛施設の建設を行い、実効支配を強化する必要がある。
領土問題の鉄則は「友愛」ではない、むしろ強い覚悟と軍事力も含めたパワーバランスである。日米同盟といっても日本自らが尖閣諸島への実効支配に対して及び腰では、米国にできることも限定されよう。沖縄の米軍基地の移転問題などで、現政権下の日米同盟は危機的状況にある。以前に拙稿「尖閣問題は時間との勝負、国際司法裁判所の活用も」のなかでも述べたことだが、日本政府に残された時間は限られている。国土を守る強い覚悟をもって戦略を組み立てることが、現在の日本に取って喫緊の課題なのである。
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