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2006-11-03 00:00
北朝鮮の核実験について思う
堂之脇光朗
日本紛争予防センター理事長
北朝鮮が「核実験成功」と発表した。筆舌に尽くし難い核兵器の惨禍を体験したわが国は半世紀以上にわたり国連その他の場で率先して核実験の停止を訴え、核軍縮の推進を訴えてきた。同盟国の米国に対しても遠慮はしなかった。それだけに、今回の隣国北朝鮮の暴挙を断じて許すわけにはいかず、核兵器保有を断念させるよう全力を尽くすのは当然のことである。もちろん、特異な国である北朝鮮に行動を是正させるのは容易ではないが、関係諸国と緊密に連携して圧力を加えるべきである。
ところで、核実験を予告した10月3日の北朝鮮の声明文には、「核兵器を持つ以上は核実験を行うことが前提条件である」との表現があった。5核兵器国のみならず、インド、パキスタンまでもが核実験のモラトリウムを遵守している中でのこの理由付けは「盗人猛々し」であるが、問わず語りの本音でもあろう。使い物にならない核兵器では話にならないからである。
しかし、筆者が1990年の秋にジュネーブの軍縮大使として米国ネバダ州の核実験場を視察させてもらった経験から言えることは、核実験は何回繰り返しても、これで満足という結果は得られないということであった。包括的核実験禁止条約締結が避けがたい国際世論となりつつあった当時、こうした動きの急先鋒であったわが国の軍縮大使に核実験の必要性を理解して欲しかったのであろう。地下核実験の跡を示す月面のアバタのような円形の陥没が無数に地平線まで広がる砂漠風景の中での視察であった。
現地の関係者たちの説明では実験なしで軍に核兵器を引き渡すことはフライト・テストなしで戦闘機を引き渡すと同じで無謀、無責任とのことであった。核爆発は物理学的には知り尽くされているが、同じ装置、物質、分量であっても毎回爆発の起こり方や威力に違いがあり、その理由を解明するためには何百万分の一秒の高速写真で分析する必要があるとか、核爆発物質が核弾頭に装填されてから何年ぐらい経つと信頼度が低下するかを測定する必要があるとか、弾道弾ミサイルが大気圏に再突入する際に弾頭が高熱や振動、重力の中でも暴発せず、目的地の上空何百ヤードといった地点で確実に爆発するためにはシミュレーション装置でテストする必要がある、といった説明を聞かされた。
テストを繰り返すことにより核兵器の信頼性、安全性が向上し、その条件を満たさない核兵器は廃棄できるので核軍縮のためにも核実験は必要といった議論も聞かされた。当時までにすでに1000回以上も核実験を行った関係者たちの説明がこれであった。そうであれば、関係者たちには申し訳ないが、包括的核実験禁止条約が締結されれば核兵器は早晩「フライト・テストなしの戦闘機」と同じようにすべて使用不能となるであろうから、核兵器廃絶の日も近づくのではないかとの期待感を抱いた記憶がある。
それに比べ、「核兵器を持つ以上は核実験を行うことが前提条件である」とする北朝鮮は何回実験を重ねれば実際に使える核兵器を持つことになると考えているのであろうか?兵器としての信頼性などは問題でなく、単に核爆発を起こす可能性が高い兵器を保有するだけで「抑止力」として効き目があるに違いないといった無謀、無責任な考え方が先行しているように思われてならない。なお、昨今のわが国の核武装論議に関しては、筆者はいかなる国も核兵器を保有することにより自国の安全を保障することはできず、他の軍事技術を探求すべきではないかとの立場である。
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