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2012-10-01 00:00
日米安保適用は「尖閣」実効支配が前提
鍋嶋 敬三
評論家
中国では11月に習近平新体制が発足するが、尖閣諸島の奪取を狙った対日攻勢の手は緩めないだろう。「尖閣」は米国や東南アジア諸国(ASEAN)も含めたアジア太平洋地域における地政学上の焦点になってきた。この問題の外交的処理を誤れば、日本の国益とアジアの平和に禍根を残すだろう。これまでは日米安保条約の「重し」があったからこそ武力紛争一歩手前で止まっていた。しかし、武力紛争の危険性が依然としてあることは、南シナ海での中国とフィリピン、ベトナムなどとの領有権紛争や米軍艦に対する「実力行使」を見ても明らかである。日本国内では、米国が再三「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲」と言明していることで、安心する傾向が強い。しかし、実際に適用されるかどうかは、その時の国際情勢(日米中関係など)や島々をめぐる状況(実効支配ぶり)に左右されることを認識しておかなければならない。
米上院外交委員会の東アジア太平洋小委が9月下旬、海洋・領土問題についての公聴会を開いた。外交委の実力者であるウェブ小委員長は、中国の梁光烈国防相がパネッタ米国防長官との会談後、日本に対し「さらなる行動を取る権利を有する」と述べたことは、「軍事力行使の脅しであり、この脅しは米国に対して直接的な結果をもたらすものだ」と厳しく批判した。そして、最近の中国による領海侵犯を見れば、「米国が安保条約の義務を明確に言明し続けることは不可欠だ」と断言した。これを受けてキャンベル国務次官補が示した米国政府の「統一見解」は以下の3点である。(1)これら諸島の最終的な主権については、どちらの立場も取らない。(2)日本が実効支配を維持していることを米国は認める。(3)従って、日米安保条約第5条の適用範囲に入ることは明らかである(第5条の対象は「日本国の施政権下にある領域に対する攻撃」である)。米政府の立場は1997年、当時のアーミテージ国務副長官、2010年にクリントン国務長官、さらに今年9月17日にパネッタ国防長官が日本訪問時に表明している。上記の米政府見解からすれば、日本による尖閣諸島の実効支配が前提であり、そうでない場合には、状況によっては第5条適用除外の可能性を排除していないと読める。
日本政府がなすべきことは、(1)第1に、実効支配を揺るぎないものにすることである。鳴り物入りで行う必要は全くない。静かに時を選んで進めるべきものである。海上警備体制の大幅強化は言うまでもない。そのための法的整備も喫緊の課題だ。(2)第2に、日米同盟を確固としたものに立て直すことである。米軍再編、海兵隊の新型輸送機オスプレイの沖縄配備も、米国の抑止力強化の一環である。動的防衛力に基づく防衛態勢の強化とともにミサイル防衛など日米防衛協力の推進は絶え間ない課題としてある。それを遅滞なく実行することが、中国に対する有効なメッセージになる。
(3)第3に、対中関係の再構築である。日中国交正常化(1972年)当時の周恩来首相、日中平和友好条約締結(1978年)当時の最高実力者・鄧小平副首相のような知恵者が中国側にいなくなった。国交正常化の時は「この問題に触れない」ことで収めた。覇権問題で激しく対立した条約交渉中の1978年4月、中国漁船108隻が尖閣周辺で示威行動をして、日本に圧力を掛けた。条約批准のため来日した鄧氏の「棚上げ」発言は「現状維持(status quo)」を優先させつつ、「尖閣カード」は温存するという、したたかな外交の表れだった。関係再構築に当たって、日本は中国の新指導部の出方を慎重に見極めるべきであり、拙速は禁物である。最後に日本は、米国だけでなくASEAN、豪州、ニュージーランド、インド、欧州連合(EU)など民主主義諸国との重層的な関係を強化し、日本への理解者を増やさなければならない。中国による事実を歪曲した宣伝が世界に浸透しないよう、日本の正当な主張を国家としての品格を保って広く国際世論に訴えるPublic Diplomacy(広報外交)を積極的に展開することが急務である。
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