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2012-10-09 00:00
米韓ミサイル合意の狙いとは
杉山 敏夫
団体職員
このほど、米韓両国は「韓国が開発・保有できる弾道ミサイルの射程距離を従来の300キロから800キロに延長する」などの内容を含むミサイル合意に至った。各種報道によれば、同合意の狙いは北朝鮮に対する抑止力の強化であり、韓国政府高官らも「最重要目的は北朝鮮の武力挑発抑制にある」と強調しているとのことである。実際、韓国側の意図からすれば、同合意の意義は非常に大きく、ミサイルの射程が800キロに延長されたことにより、北朝鮮の軍事基地があるとみられる平安北道も射程内となった。さらに、韓国南部からでも十二分に平壌および平安北道一帯を狙うことが可能となった。
しかし、なぜ今この時期にこのような合意がもたらされたのだろうか。著者は、米韓ミサイル合意の真の狙いとは、対中国牽制にあるのではないかと考えている。なぜなら、まず合意のタイミングが興味深い。これが本当に「北朝鮮に対する抑止力の強化」であるならば、ミサイル能力の向上はその「能力」という点では評価できるが、相手に対する意図の「伝達」あるいは「シグナル」としては的外れな時期である。報道によれば、同ミサイル交渉は2009年の北朝鮮によるテポドン発射を受けて開始されたとのことだが、2012年現在に至るまで、米韓両国はその意図を北朝鮮に対して明確に「伝達」する絶好のタイミングを逃してきた。韓国哨戒艦沈没事件や延坪島砲撃事件は言うに及ばず、今年3月のミサイル発射実験しかりである。しかも、合意先延ばしの背景として、米側が交渉妥結を拒んできたという経緯が一部で明らかにされていることも注目に値する。
仮に北朝鮮への抑止が主たる目的でないとすれば、現在の中国による拡張主義的外交攻勢に鑑み、それはむしろ米国による対中牽制あるいは抑止政策の一環として捉えることができるのではなかろうか。射程800キロは、奇しくも「中国大陸をも射程内としつつ、北京が射程から外れる」という絶妙の距離である。韓国議会は射程1000キロを求めていたが、1000キロでは都合が悪い。北京が入るため、中国をさらに刺激してしまうことになりかねない。絶妙な距離を保ちつつ、中国への睨みを利かす戦略は、韓国が今回の合意により、グローバルホーク並みの無人偵察機を米側から近く導入することになったことにも表れている。現存の韓国軍無人偵察機は最大航空距離が半径200キロで、滞空時間は6時間である。これを大幅に上回る無人偵察機の導入は、中国に対する新たな牽制となろう。
今回のミサイル合意は、北朝鮮への抑止という点では(あくまでも時期的に見た場合は)不適切であるばかりか、同国による要らぬ反発を招くこと必然である。他方、米韓の国内政治に目を転じれば、両国はともに大統領選挙を控えており、この合意が次期政権において継承されるか定かではない。北朝鮮の反発という大きな外交課題を残すことは、選挙対策という点でもマイナスであろう。だとすれば、この時期の米韓合意はなおさら意味深い。北朝鮮の反発という予期された事態のみならず、大統領選の行方を賭してでも、米韓が合意せざるを得なかったのはなぜか。本稿は、この問いに対する一仮説として「中国に対する牽制」を指摘した。今後の状況を凝視しながら、検討を続けたい。さしあたり、昨日から今朝にかけ、早速、中国による反発の報道が伝えられてきたが、他にも気になるニュースが幾つかあった。たとえば、ヒル前国務次官補の談話や李明博氏と麻生太郎氏の会談の様子などがそれである。これら一連の流れは、本稿の議論とも関連していると考える。
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