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2012-10-13 00:00
中国およびイスラム圏でのデモについて
水口 章
敬愛大学国際学部教授
国家には、治安維持という基本的役割がある。その目的を実現する機関として警察がある。国家は警察力を行使することで、不確かな状況を安定化させることもできるし、完全な安定状態ではないが、安定化に近い状態を維持し続けることもできる。つまり、警察は状態を制御する機能を持っている。制御工学では、外乱の影響に対して、制御系の安定性や制御性能が保持される性質を、ロバスト性と呼んでいる。
ここで、このロバスト制御の観点から、現在のイスラム圏での抗議デモをパターン化してみる。まず抗議デモが「ロバスト制御を超えた国家」としては(1)デモが暴徒化し、死者が出る衝突事件が起きているパターン、(2)デモが暴徒化し、器物破壊事件が起きている(国際法に抵触する)パターン、が指摘できよう。前者の例としては、米国大使館員4人が死亡したリビアやデモ隊参加者4人が死亡したイエメン、デモ隊2人が死亡したエジプトなど、が挙げられる。後者の例としては、スーダン、チュニジアなどが挙げられる。次に「ロバスト制御下の国家」としては(1)抗議デモが起きたが、大きな衝突が起きていないパターン、(2)抗議デモが起きなかったパターン、の2つが指摘できよう。前者の例には、イラク、イラン、クウェート、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシアなどが挙げられ、後者の例では、カタールが挙げられる。
では、警察という制御系が現実の社会でうまく機能しない要因は何だろうか。1つには、外乱の強さ(反米感情の強さ、経済面での不満、宗教心の強さなどに影響される)と方向性の問題が考えられる。2つ目として、警察機関の弱体化による機能低下の問題があるだろう。3つ目に、社会(制御対象)自体が警察機関では制御できないものに変化(ソーシャル・ネット・サービスの発達、武器の拡散など)しているという問題が考えられる。今回の反米デモについて、暴徒化した市民が大きな衝突事件を起こした国と、「アラブの春」と呼ばれる政変との関係を結び付けた解説も見られている。確かに、上記のパターンで見ると、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンという政変が起きた国でロバスト性の弱さが見られる。しかし、その弱さの要因は国ごとに異なる可能性があり、一括りに結びつけるべきではないだろう。むしろ、多くの国で共通して見られるのは、「反米感情」の大きさだろう。この点についてもっと注目し、その源泉について分析しなければならないのではないだろうか。
この反米感情の大きさと同様の感情が、われわれの身近にもある。中国の社会空間に存在する反日感情である。その大きさと暴力化する方向性が、時に中国の治安機能を超える状況も見られている。日本のメディアでは、中国でのソーシャル・ネット・サービス(SNS)の広がりによって「デモを統制できなくなる恐れがある」との指摘もなされている。では、中国において社会のロバスト性が弱くなっているのだろうか。つまり、現在の反日デモが共産党体制の安定性を制御できないものになるのだろうか。現在までの、中国でのデモに関する報道を見ていると、確かに器物破壊事件は起きているが、デモ参加者は、治安機関が暴力的衝突を避けることができるとの「信頼感」を持っているようにも見える。つまり、SNSでデモ参加の呼びかけに応じて集合する人々が増えたとしても、治安機関のロバスト制御を超えた制御不能事態は起きていないと言えるのではないだろうか(一部では催涙弾も使用されているが)。中国における大規模デモを、同国政府が操っているものだと評価したり、いつか制御できないものになると分析する論調もある。しかし、今だからこそ冷静に中国の人々の反日感情の源泉を理解する必要性があるだろう。その一方、中国の治安面でのロバスト性の強さについて分析することも重要である。この点は、同じ時期に起きているデモに共通するところだろう。
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