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2012-10-18 00:00
安倍は、政権に就けば“君子豹変”で参拝しまい
杉浦 正章
政治評論家
秋季例大祭とはいえ、なぜこの時期に自民党総裁・安倍晋三が靖国神社を参拝したかである。恐らく本人は綿密に状況と利害得失を分析して、総選挙にプラスと判断したに違いない。折から尖閣、竹島両島をめぐり、世論は対中・対韓強硬論が強く、保守回帰の潮流が生じている。近く行われるであろう総選挙では、領土問題が大きなテーマとなることが確実だ。しかし、問題は、政権復帰を果たしてから首相として参拝を続けるかどうかだが、おそらく“君子豹変”に出るだろう。対中・対韓関係改善に動くことが「安倍政権」の最大のテーマとなるからだ。さっそく中国は洪磊副報道局長が10月17日夜、「日本は歴史問題について従来の厳粛な態度を守り、責任を持って処理すべきだ」と非難した。国営新華社通信も「惨敗は悪魔の影を呼び起こした。人気取りの意図は明らか。(参拝は)近隣外交の苦境をさらに深めるものだ」と論評した。しかし、一連の尖閣問題に対する激高の態度よりトーンが弱まっているように見える。中国も「次期政権まで敵に回してしまってはまずい」との判断が働いている可能性がある。
現に日経によると、中国大使館関係者から自民党の外交関係議員のもとに、電話で「安倍氏の参拝を止められないか」と要請があったという。「安倍政権」での関係改善を意識している証拠だ。一方、安倍自身も水面下では日中改善へと動いている。中国側は、第1次安倍内閣の際の安倍の態度急変が頭にあるものとみられる。安倍は2006年9月26日に首相に指名されるやいなや、10月8日から中韓両国を電撃訪問した。中国では主席・胡錦濤と、韓国では大統領・盧武鉉と会談して、両国との関係を一挙に改善している。とりわけ中国とは「戦略的互恵関係」を樹立している。日中両国がアジア及び世界に対して厳粛な責任を負うとの認識の下で、お互いが利益を得て共通利益を拡大し、日中関係を発展させることに大きくかじを切ったのだ。それまでの首相・小泉純一郎の6回にわたる靖国参拝で冷え切った日中関係を打開する道筋を開いたのだ。
今回首相になった場合、そのような急変が可能だろうか。安倍は参拝後、記者団に「日中・日韓関係がこういう状況で、いま、首相になったら参拝するかしないかは申し上げない方がいい」と述べている。これはかつて首相就任当初から「参拝するか、しないかは言わない」という“あいまい戦術”を取ってきたのと全く同じ路線である。しかし、今回の場合、安倍は総裁選挙の最中から靖国参拝を明言しており、先月下旬に総裁就任後も、「国の指導者が参拝するのは当然で、首相在任中に参拝できなかったのは、痛恨の極みだ」とまで言い切っている。これに先立って極右・櫻井よしことの対談でも、より踏み切った発言をしている。首相に再選された場合の参拝について、安倍は「靖国神社には当然、参拝する。実は総理の任期中には絶対参拝しようと思っていたが体調不調で辞めざるをえなくなってしまった」と弁明。「菅氏も、鳩山氏も、閣僚に靖国神社への参拝自粛を求めたが、日中関係は悪化している」と靖国参拝と日中関係を切り離す発言までしている。
ここまで踏み切った発言をすれば、当然首相就任後も参拝を繰り返すという判断が成り立つが、果たしてそうだろうか。安倍の対中外交の“成功体験”がそれを抑制するのではないか。首相で参拝したとすれば、ただでさえ尖閣問題で緊迫の度を加えている日中関係に、取り返しの付かない打撃を与えることは必定である。安倍は尖閣問題についても、総裁選で「船だまりを作る」とか「公務員を常駐させる」とかと、石原慎太郎並みの踏み込んだ発言を繰り返している。従軍慰安婦で日本軍の関与を認めた官房長官・河野洋平談話と植民地支配をわびた首相・村山富市談話の見直し発言もしている。これらの“公約”の延長線上にあるものは、日中国交断絶や武力衝突に他ならない。もちろん国論もそこまでの対中強硬姿勢を求めてはいない。対中関係改善は日米安保体制再構築に次ぐ重要案件であり、それを自らの主義主張のために最初から破壊する行動を取るとすれば、いくら右傾化の自民党政権でも最初から揺らぐ。かって安倍自身がそうしたように、持論・主義主張を抑制しながら国益を追求する姿勢が、新首相に求められるのだ。したがって、安倍は国益重視の君子豹変に出るしか選択の余地はない。今のうちの靖国参拝は“靖国不参拝”のカードを切るための条件整備の性格をもたせる色彩が強い。
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