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2012-11-26 00:00
オバマ政権、インド洋重視へ布石
鍋嶋 敬三
評論家
米国のオバマ政権は第2期外交・安全保障政策としてインド洋を重視する戦略の布石を打った。政権第1期では中国との確執が深まる中、アジア太平洋への回帰を打ち出した。オバマ大統領は11月中旬、カンボジアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議や東アジア・サミット(EAS)出席のため、再選後初の外遊先としてアジアを歴訪した。クリントン国務長官、パネッタ国防長官もオーストラリア、東南アジアを駆けめぐり大統領を支えた。対中戦略の観点から中国への対抗勢力として成長著しいインドとインド洋の戦略的重要性に着目したのである。同盟国はもとよりインドネシアなどASEAN加盟国との間でも濃淡はあれ軍事協力を進めつつある。中国の「南進」を抑止する戦略である。12月の総選挙後に新政権が発足する日本はこのような情勢を十分踏まえて安全保障戦略を策定しなければならない。
「対中関与戦略の緊密な調整」(米国務省高官)と位置付けられた米豪外交・防衛閣僚会議(2+2)が11月14日、オーストラリアで開かれた。共同コミュニケでは「地域におけるインドの重要性が増大し、貿易、海洋安全保障戦略に対するインド洋の重要性を認識した」と述べたうえで、インドの役割増大を支援することをうたった。米豪の防衛協力はすでに海兵隊と空軍機のローテーションによる北オーストラリアへの展開が進み、さらに海軍の協力も検討中だ。2+2の結果、インド洋に面する西オーストラリア州に宇宙監視用のCバンドレーダーと高性能の光学望遠鏡を設置する了解覚書に署名した。南半球における宇宙への監視態勢を整えるためである。
南シナ海とインド洋をにらむ要衝にあるシンガポールは2005年に米国と「戦略枠組合意」に調印して以来、軍事協力を深めており、沿岸防衛に威力を発揮する最新鋭の沿岸戦闘艦(LCS)4隻のうち第1号艦を2013年以降ローテーション・ベースで受け入れる。米国務省はLCSの寄港や地域諸国の海軍との交流を通じて米国の関与を強める意義があるとしている。オバマ大統領を迎えたタイは環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉と拡散に対する安全保障構想(PSI)への参加を表明、北朝鮮との核協力が疑われているミャンマーが国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の署名に合意した。オバマ大統領はテイン・セイン大統領の協力姿勢を評価し、ミャンマーに対する輸入制限など経済制裁の一部を解除した。タイもミャンマーもインド洋に開けた国であり、第1期オバマ外交を締めくくる成果である。
中国はアジアでの勢力拡張のため米国の影響力拡大を阻止しようと躍起である。中国の強い影響を受けるASEAN議長国のカンボジアが南シナ海の領海紛争を「国際化しない」ことに首脳が合意したと宣言した。紛争は「二国間で処理すべきだ」とする中国の意向を反映、米国の介入を排除することを意味する。フィリピンのアキノ大統領が「そのような合意はない」と否定、ASEAN内部の足並みの乱れを露呈した。中国の温家宝首相はマレーシアのナジブ首相との会談で5年間に両国間の貿易額を倍増する経済協力計画に合意し、温首相は「マレーシアは対ASEAN関係の中心だ」と持ち上げた。マレーシアは領海紛争の当事国の一つだが、経済協力のアメでくさびを打ち込み、ASEANを分断する狙いがある。中国は最近、新規発行のパスポートに自国領土として南シナ海の大半、中印国境の係争地、台湾の名勝地を入れた地図を印刷し、フィリピン、ベトナム、インド、台湾から抗議を受けている。国際秩序を一方的に変更しようとするものだ。中国の習近平体制が発足した直後の動きであり、今後の中国の強硬姿勢をうかがわせる。
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