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2012-11-27 00:00
イスラエル・ハマス間の軍事衝突について
水口 章
敬愛大学国際学部教授
最近ある講演会で鈴木敏郎前駐シリア大使の、またあるセミナーで岡浩外務省中東アフリカ局審議官の、それぞれ発言を聴く機会を得たが、私は、両氏のお話から、中東地域の格差(国レベル、都市と地方、個人レベル)と若者層の失業問題の深刻さを改めて認識した。暴力行為へと発展する憎しみのエネルギーを鎮めることの難しさは、イスラエルとハマスの間で起きている現在の戦闘行為からも見て取れる。以下では、このイスラエル・パレスチナ間の動向をはじめ、中東地域での気になる2つの動きについて、それらの関係性を中心に考えてみる。まず、前提として「今という時期」を確認しておく。第1は、国連総会でパレスチナの「オブザーバー国家」への地位格上げ協議が本格化しようとしている。第2は、シリア問題で11月11日にドーハで反体制運動の統一組織「シリア国民連合」が発足した。第3は、11日にイスラエルの占領下にあるシリア領ゴラン高原へシリア軍からの迫撃弾が着弾した(1973年の第4次中東戦争以来初めて)。第4は、14日にヨルダンのアンマンでアブドラ国王体制打倒の抗議デモが起き、治安部隊と衝突した。
まず気になるのは、イランの核開発問題の動きである。16日、国際原子力機関(IAEA)がイランの中部フォルドゥの地下施設において2784基のウラン濃縮用遠心分離器の設置を終えたとの報告を発表した(8月時点で2140基、また20%の濃縮ウランは43.3kg増の232.8kgとなった)。ここからもわかるように、イランは核開発問題への国際圧力をかわしながら能力を高めている。IAEAは、12月13日にテヘランで協議を行う予定である。このイランの核開発問題に関し、イスラエルはいつまで、オバマ政権のイランとの対話路線を静観できるだろうか。仮に、イスラエルが静観を続けるとすれば、直面する安全保障上の脅威であるパレスチナ問題に関し、米国の政治的助力を求めることが十分考えられる。そうなると、18日にイスラエルの閣議後、ネタニヤフ首相が表明したように、ガザでの軍事作戦を大幅に拡大することが現実味を帯びてくるだろう。
次に、イスラエルの軍事関係者が懸念している、ガザ(ハマス)、南レバノン方面(ヒズボラ)、ゴラン高原方面(シリア軍)という反イスラエル戦線の共同軍事行動の動向である。今回のハマスによるイスラエルに対するロケット弾攻撃は、関係の深いシリアの現政権支援という目的もあるのではないかとも考えられる。仮にそうだとすれば、ハマスが単独で実施しているのか、それともシリア、ヒズボラ、イランが反イスラエル戦線を連動させて動かそうとしていることの一環なのか、との疑問も湧いてくる。イスラエルのネタニヤフ首相は、来年1月の総選挙を前に、安全保障問題で国民の信頼を得る必要がある。したがって、ハマスがイスラエルを攻撃すれば、ネタニヤフ首相が過剰反応をすることが予想できる。そうすると、シリア問題に関し欧米諸国とアラブ諸国の歩調が乱れることも予想がつく。また、ヒズボラの指導者ナスラッラー師は、アラブ諸国に対しシリア問題からパレスチナ問題に関心を移すべきだと強く主張している。果たして、今回のハマスのロケット弾攻撃はシリア問題やイラン核開発問題との関係がないのだろうか。
こうした疑問を持つのも、イランとシリアがこれまで周辺諸国での緊張関係を利用し、存在感を示してきた国だからだ。現在、両国が「ブラックメール」の手法により欧米による国際秩序づくりに抵抗しているとも考えられる状況にある。国際社会は、恐らくこれらのことを念頭に、「怯むことなく」イスラエルにガザへの軍事行動の停止を求める一方、シリア国民連合への「経済支援」「正当性の承認」を速やかに実施することが望まれる。その際、ノーベル平和賞を受賞しているオバマ大統領の決断力が問われることになるだろう。
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