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2012-12-09 00:00
(連載)安倍さんの「無制限の金融緩和策」を検討する(2)
中岡 望
国際基督教大学非常勤講師
では、日銀のマネタリーベースの増大策にもかかわらず、なぜ信用乗数が期待されたように働かないのだろうか。まず、企業の資金需要が低迷していることが上げられる。さらに、銀行は不良債権を抱えることを懸念して、慎重な貸出し姿勢を崩していないからだ。成長性が高く、雇用効果の大きい中小企業へは、リスクが高いから資金が流れていかないのである。また、実体経済の側からも旺盛な資金需要があるわけではない。銀行は借りたくない企業に貸すことはできないのである。不良債権を抱え、利払いが滞る事態にでもなれば、金融当局は強制的に銀行の償却を要求する。そうすれば、銀行の自己資本比率は低下し、場合によってはBIS(国際決済銀行)が定めている自己資本比率を割り込むかもしれない。他方、銀行が貸したい優良企業は手元流動性を潤沢に持ち、借入を増やす必要はない。逆にデフレ的状況の中では借入の返済を進めているのが実情である。金利が下がれば、企業の資金需要が増え(マネーサプライが増大)し、景気が刺激されるというのは、あまりにナイーブな議論であると言わざるを得ない。企業が資金調達をして、事業を拡大するひとつの条件として借入金利の水準があるが、それですべてが決まるわけではない。
次に、インフレ目標に関していえば、日本銀行は消費者物価の1%上昇を既に目標にしている。自民党は「2%の明確な目標を設定する」ことを主張している。1%と2%の目標設定が、実体的にどれだけの差があるのか分からない。さらに、自民党では「名目3%の経済成長率」を目標としているが、その論理的根拠も曖昧である。おそらく、実質金利をマイナスにする程度という意味合いであろうか。要するに、安倍総裁やリフレ派の経済学者にとって、日銀の政策では手ぬるいというのであろう。インフレ目標政策のポイントは、中央銀行の“政策コミットメント”と“アナウンスメント効果”を通してインフレ予想に影響を与えることにある。これも白川総裁の著作から引用すれば、「“言葉”が予想に働きかけるうえで有効なのは、中央銀行が物価上昇率を高めるうえで有効な政策手段を有しており、その政策手段を“言葉”と整合的に動かすという予想を民間経済主体が抱いている場合である」。では、日銀にインフレ目標をピンポイントで達成する“有効な手段”はあるのだろうか。日銀にとって有効な手段とは、マネタリーベースを増やすことしかない。それ以上の強権的なやり方は禍根を残す。
バブルの時、日銀と大蔵省は不動産バブルを押さえ込むために、不動産会社や建設会社に対する“融資の量的規制”を導入した。市場原理を逸脱した政策であり、その効果は絶大であったが、その結果、長期にわたる不動産不況と地価低迷を招いたことは明白である。そのコストは甚大であった。具体的な目標実現のための政策手段がないのに、象徴的に目標を掲げるのは賢明な政策とはいえない。繰り返すが、中央銀行がインフレ目標を設定することで、市場の予想に影響を与えるというのが、この政策の特徴であり、限界なのである。また、安倍総裁は、建設国債を含む国債を“無制限”に、インフレ目標を達成するまで購入することを主張している。もし日銀が無制限に長期国債を購入した場合、何が起こるのだろうか。ますます政府の財政規律は失われ、国の債務が増加する懸念がある。だが、さきのリフレ派経済学者が言うように「通貨をジャブジャブ供給する」唯一の方法は、日銀が“無制限”に長期国債を購入することである。
当初、安倍総裁は「建設国債の日銀引き受け」という発言を行っていたが、途中でさすがに気が引けたようで、「日銀引き受けなど言っていない」と前言を翻し、市場からの購入と言い換えている。ただ、買いオペで購入する場合はある程度市場の規律が働くが、日銀引き受けの場合、完全に市場の規律は失われてしまう。戦時国債を思い浮かべれば、何が起こるか十分に想像できるだろう。白川総裁は11月21日の記者会見で「日本銀行による大量の長期国債の買い入れは、財政ファイナンスであるという誤解が生じると、長期金利が上昇し、財政再建だけでなく、経済全体にも大きな悪影響を与えることになる」と答えている。直接引き受けであろうが、市場からの“無制限”な購入であろうが、それは“財政ファイナンス”に変りはない。結果的には、この政策は日銀による“国債価格維持政策”以外の何者でもなく、また政府は低利での日銀融資を受けているのと変らないのである。要するに国債の貨幣化が行われるのである。(つづく)
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