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2012-12-10 00:00
留学生半減は国家の損失
鍋嶋 敬三
評論家
米国の国際教育研究所(IIE:国務省の外郭団体)が11月に発表した留学生に関する年次報告書(2011/12年度)によると、日本からの留学生は出身国別では7位(19,966人)とピーク時(1997/98年度、47,073人)の4割にまで落ち込んだ。トップは中国(194,029人)で日本の10倍、留学生全体の4分1を占めた。奇しくも世界の人口比とほぼ同じである。2位のインドは100,270人、3位は韓国で72,295人とそれぞれ日本の5倍、3倍以上を送り込んだ。米国への留学生だけを過大視するわけではないが、世界中から764,495人もの若者が押し寄せるのは、相対的な力の低下傾向があるとはいえ、経済、科学技術、文化など若者を引きつける魅力がアメリカ社会にはあるからだ。日本企業がアジアを中心に海外展開に活路を見いださざるを得ない時代に、人種、言語、文化、宗教が全く異なる世界で活躍するうえで、人脈も開拓できる留学が最高の機会である。この10年間に日本人留学生が半減という寒々しい現状は、将来の国家の大きな損失と危惧せざるを得ない。
留学生のレベルを見ると、数だけではない問題も見える。日本は半数近くが学部生で専門課程の大学院生は全体の22%しかいない。そのほか語学などの短期プログラム生が多く、単位取得を目的としない学生の割合が増えている。専門分野でリードする人材の割合が小さい。これに対して、中国は大学院生が半数近く、インドは6割近くに達し、エリート養成に徹している。日本から留学を目指す動機も「国際感覚を養う」とか「英語がうまくなりたい」など漠然としたものが多い。専門分野で外国人と渡り合える実力を身に付けるという動機が弱いから、経済状況や企業の人事政策に左右されて、日本から外に出たがらない「内向き」志向になりやすいのではないか。留学は時代の国家の勢いも反映する。岩倉具視欧米視察団に同行して津田梅子(6歳)や大山(旧姓山川)捨松(11歳)ら少女5人が太平洋を渡ったのは、明治維新直後の1871年だった。
米国への留学生のトップは、1983/84年以降、イランに代わって、台湾→中国→日本→インド→中国と連続してアジアが中心であった。「21世紀はアジアの世紀」の支えになろうとしている。特に中国は、2007/08年以降、約20%の伸びを続けている。10年から20年後、中国やインドの留学生は指導者として国際舞台の正面に出てくる。新しい国際秩序の形成に相当な影響力を発揮するだろう。日本はそれに太刀打ちできるだけの人材をそろえることができるだろうか?外国で学び、暮らすことの意味は多様な世界を実感し理解の深化につながることである。グローバル化世界においては純日本的な思考による「独りよがり」は通用しない。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉への参加をめぐる反対派の議論が一例である。相手の主張に耳を傾ける一方、自らの主張を論理的一貫性をもって説得する能力を磨き上げるプロセスが留学である。
米国の経済誌『フォーブス』はIIEの報告についての論評の中で「もし日本が経済的冬眠から抜け出したいのであれば、もう一度世界に向けて自らを開く必要がある」と忠告している。留学生激減の背景は、一面的にはとらえられない。大学の4月入学制度や雇用政策にも問題があることは指摘されてきた。しかし、1995~98年度は日本がNo.1だった。この10数年間でなぜ急激に低下したのか。若者がますます現状に安住し、自分の世界に閉じこもって、他者とのかかわりを忌避する社会環境と無縁ではないかもしれない。円高不況で企業がグローバル展開を余儀なくされている現実が目の前にある以上、また日本社会を内から変えていくためにも、留学生を送り出す支援策を大学、企業、官僚組織を含め社会全体として考える時期にきているのではないか。
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