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2012-12-14 00:00
(連載)尖閣問題でどう米国を説得するか(1)
河村 洋
外交評論家
尖閣諸島をめぐる日中間の衝突は世界の注目を集めている。これは領土主権をめぐる不一致に留まらず、シーレーンの安全保障と海底資源の問題でもある。尖閣諸島に関してアメリカが曖昧な態度をとっていることは問題である。中国の海洋拡張主義に鑑みれば、尖閣諸島はアドルフ・ヒトラーのドイツにおけるラインラントのような存在である。イラクがクウェートに侵攻した際に、イギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)がジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)に、サダム・フセインの誇大妄想的な野望を警告したことを忘れてはならない。よって、日本が尖閣諸島の戦略的価値をアメリカの国民と政策形成者達にどのように説得するか、を模索することはきわめて重要である。
実際にアメリカ人の中には中国の拡張主義の脅威を理解しながらも、尖閣諸島をめぐる衝突に深く関わることに消極的な見解も見受けられる。米海軍大学のジェームズ・ホームズ準教授は『ディプロマット』誌への11月27日付けの投稿で、そうした心理をペロポネソス戦争勃発時のアテネの立場になぞらえている。ホームズ氏は、ツキジデスの『ペロポネソス戦争史』に言及し、同盟内部での強国と弱小国の間の認識の食い違いを指摘している。弱小な同盟国は同盟の盟主の力を最大限に利用して国益の最大化を求めているのに対し、強大な同盟国は対抗国との対決にいたるようなリスクを避けたがる。ペロポネソス戦争の事例では、ケルキュラがコリントとの紛争でアテネに支援を求めたとき、アテネはデロス同盟の盟主として自国の艦船をケルキュラ海軍に随行させたが、緊急の危険が迫らない限りはコリントとの交戦を禁じた。アテネは対抗相手のペロポネソス同盟の盟主であったスパルタとの直接対決を懸念したのである。ホームズ氏は「アメリカがアテネのように曖昧な態度をとれば、たとえ不本意ながら自らが衝突に引き込まれることがあっても、日本は独自の行動をとろうとするようになるであろう」と述べている。それによって日米の相互信頼は損なわれるだけである。古の賢人達は現代の戦略家達に洞察力に富む教訓を示してくれるが、それをどのように政策に反映させるかは、我々がそうした教訓をどう解釈するかにかかっている。
そのような中途半端な関与がもたらす致命的な結末に鑑みて、アメリカのメディアの中にはオバマ政権に日本支持の立場を明確に打ち出すように促す論調もある。日本は、中国のみならず、ロシアや韓国といった近隣諸国との領土紛争でも、暴力に訴えたりはしていない。『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙は10月25日付けの論説で「オバマ政権が尖閣の領土主権に関しては中立の立場を保ちながら、日本の施政権は認めるという微妙な配慮をしているために、サダム・フセインのクウェート侵攻のように中国の冒険主義を刺激する恐れがある」と主張している。また『ワシントン・フリー・ビーコン』紙は、中国の徐才厚中央軍事委員会副委員長が9月14日に「中国は日本との戦争になっても、そのための準備ができている」とまで発言したのに対し、オバマ政権が日中領土紛争に中立の立場をとっていることを批判している。また「オバマ政権が中国の海洋進出攻勢を目前にしながら、東アジアの主要同盟国を支援していない」と厳しく批判している。上院で尖閣諸島に関して日本支持の決議案が11月30日に通過したことは当然である。
しかし、アメリカには地図上の「小さな点」のために中国との対決に消極的な声も依然として存在する。日本側はどのようにして、尖閣をめぐる衝突がもたらす戦略的な意味合いをアメリカ国民と国際社会にうまく説得すべきなのだろうか?日本の政策形成者達は、効果的なメディア対策によって日本の領有権主張の正当性、中国の拡張主義の脅威そして尖閣諸島の戦略的価値を訴える必要がある。日本はこの目的のために、訴えかけるべきメディアを選択し、強調すべきポイントを強調しなければならない。ここで2つの事例を挙げたい。まず一つ目は田中均元外務審議官が9月12日に英国王立国際問題研究所で行なった「東アジアと世界をつなぐ日本」と題する講演だが、その際には中国の海軍増強、東アジア諸国のシーレーンの安全保障、東シナ海および南シナ海での海底資源紛争には言及がなされなかった。田中氏は、中国のナショナリズムには重大な懸念を述べたものの、日中の経済的な相互依存を強調するあまり、徐才厚氏が口走ったような中国の覇権的本能の危険性が見過ごされることになった。この講演は、日本のメッセージを発信する絶好の機会の一つであっただけに、田中氏がこれをうまく活用できなかったことは、残念である。(つづく)
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