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2012-12-25 00:00
能動的な安部外交の推進を
鍋嶋 敬三
評論家
自民・公明連立政権の安部晋三内閣が12月26日発足する。尖閣諸島への主権侵害を続ける中国、竹島などをめぐり関係が緊張している韓国、ともに政権交代期にある両国との関係改善を進め、アジア情勢を安定させるのが、安部外交の主要課題である。そのためには日本外交の基軸である日米同盟関係を固め直し、盤石にすることが、安部政権が第一になすべき仕事だ。民主党政権が発足直後から日米同盟を揺るがせたことが、韓国や中国、ロシア、北朝鮮に足元を見られ、安全保障上の脅威にさらされる危機を招いた。安部政権発足を機会に世界に対して説得力を持つ能動的な外交を展開するよう望みたい。
安部氏は6年前の首相就任 時に「主張する外交」への転換を唱え、「世界とアジアのための日米同盟」路線を明確に打ち出した。強固な日米同盟があってこそ、アジアの連帯に貢献できる、との認識からである。衆院選挙に圧勝後の記者会見で「日米同盟の絆を回復して、強い外交力を取り戻す」との決意を表したのも同じ軌跡の上にある。オバマ米大統領との電話会談で日米同盟の強化で一致して、安部外交をスタートさせたのは当然である。この時、オバマ大統領が「経済と政治で幅広く連携を強化したい」と述べた点に注目したい。大統領の念頭に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への日本の参加問題があることは明白である。日米安全保障条約第2条は「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、両国間の経済的協力を推進する」と定めている。条約締結後半世紀を経て、この経済条項は世界経済のグローバル化の中で新たな意味を持ってきた。
安保と経済は同盟関係を動かす車の両輪である。安部氏が年明け早々の訪米で「日米同盟の強化」を首脳間でうたい上げる場合、TPP交渉への参加を表明する最も効果的な機会であり、それを逃してはならない。自民党は衆院選公約で農業団体などの圧力を背景に「聖域なき関税撤廃」を前提にする限りTPP交渉参加に反対を掲げた。米国を含めて、自由貿易協定(FTA))交渉ではどこの国にも、例外措置を認めている。交渉に参加しなければ日本の主張も通らない。公明党との連立合意案では「国益にかなう最善の道を求める」と玉虫色の表現にしたが、自由貿易による経済成長の推進という戦略をはっきり打ち立てて、国内調整に指導力を発揮すべきである。来年夏の参院選挙までは農業票を失わないようにTPP参加について口をつぐんでおこうという姿勢では、「日米同盟の強化」という安部政権の立場は信用されないだろうし、交渉参加へのタイミングを失することになる。
アジア太平洋地域の安定と繁栄のためには、日本が主導権を取り、存在感を示す外交を推進しなければならない。日韓、日中関係の安定が喫緊の課題であり、米国のアジア太平洋戦略にとっても欠かせない要素である。米議会が12月21日「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、日本の施政権が及ぶ地域に対して米国は日米安保条約第5条に基づき防衛の義務がある」との尖閣条項を盛り込んだ2013年度国防権限法を成立させたことは、強い対中けん制になった。しかし、中国による「尖閣奪取」に向けた計画的行動はエスカレートしている。中国機に対する航空自衛隊によるスクランブルは4年間で5倍に急増、公船による領海侵犯の継続に続き、12月13日には初の領空侵犯も起こした。自衛隊機にスクランブルさせ日米の反応を見るのが目的だろう。防衛省防衛研究所が12月19日に公表した「中国安全保障リポート2012」によると(1)中国海軍と海上法執行機関の連携は、南シナ海だけでなく東シナ海でも強化される可能性が高い、(2)周辺諸国が軍を派遣すれば、人民解放軍が運用される可能性が高く、解放軍が投入される状況も想定した対応が必要、との分析をまとめた。安部外交はこのような中国の動向を認識した上で領土主権を揺るがせない対中外交を構築しなければならない。
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