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2013-01-07 00:00
安倍は“小心翼翼”戦略で危機を突破できるのか
杉浦 正章
政治評論家
ちょっと基本戦略が違うのではないかと思えて仕方がないのが、政権に就いた後の首相・安倍晋三だ。選挙期間中の勢いはどこえ消えたのか、ほとんどの公約を“先送り”してしまった。選挙で有権者が示した保守回帰の潮流はまるで無視して、安倍カラーを封印しつつある。理由は参院選対策の安全運転だというが、これでは有権者はキツネにつままれたようになる。それどころか、民主党政権と同じ「やるやる詐欺」にあったような気分になる。これでは自民党は“固い基礎票”まで失って、参院選に勝てるわけがない。確かに出だしは好調だ。スタートから弾みがついているとも言える。円安・株高がそれを象徴している。閣僚の発言をみても、まさに手だれの安定感がある。安倍の新年早々の発言も「何より大切なのはスピード感と実行力だ」「喫緊の課題はデフレと円高からの脱却による経済再生だ」「まずは『強い経済の確立。国民一丸となって『強い日本』を取り戻していこうではないか」と言葉が踊る。市場は本能的に「安倍ならやってくれるかもしれない」と反応しているのだ。老舗の自民党らしさが、久しぶりに市場と呼応した期待感を醸し出している。
昔から「景気は気から」と言われてきた。民間に「やる気」が生ずる事が、まず何よりも大切なのである。民主党政権で何をやっても駄目であった実態を見せつけられてきているから、市場はわらをもつかむ思いで「安倍買い」に走っているのだ。「アベノミクス」とはやしているのだ。しかしこの「アベノミクス」はいつ「アベノバブル」とはじけてしまうか分からない危険な賭けを伴ったものである。野党が「口先介入」と批判するが、まだ実体が伴っていないことは言うまでもない。
安倍は「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の3本の矢で、デフレ脱却を図るとしている。その手始めが日銀を押さえ込んだ2%のインフレターゲットの設定であり、2月に成立させる景気対策の12兆円といわれる巨額の補正予算だ。一見もろ手を挙げて歓迎しているかに見える市場は、民主党が封印してきた“公共事業の復活”に踊らされているのだ。というか、裏では株や為替で差益を引きだして、いつでも逃げられるように、酔ったふりして踊っている、というのが正しいかも知れない。超大型補正予算と言っても、景気を押し上げる効果は限定的で、財政を一層悪化させる可能性がつきまとう。しかも効果が数字になって現れるのは、とても参院選挙には間に合うまい。早くて1年後だ。加えて本予算は5月成立が最短であり、場合によっては会期末までもつれ込むかも知れない。参院選に間に合うわけがない。したがって、景気だけに頼った安倍の「安全運転」なる基本戦略の危険性は、ここにあるのだ。景気がつかの間のバブルとしてはじけたらどうするのかということだ。参院選挙は目も当てられない結果となるだろう。ここで先の総選挙を振り返れば、景気回復はもちろん重要な柱であったが、基本的には中国の尖閣暴動に反発した保守化の流れが自民党圧勝に大きく作用した。自民党内やマスコミは自民党の得票が伸びていないことを“反省”材料として指摘し、参院選での揺り戻し警戒論が台頭しているが、何も圧勝して反省する必要はない。
2大政党の票が伸びないままの圧勝は、民主党圧勝の時と何ら変化はないのだ。米大統領選では、勝てば公約は確実に実行が求められるし、大統領はちゅうちょすることなく実行に移す。ところが安倍は、かねてから指摘しているように“小心翼翼”丸出しの安全運転だけに徹しようとしているかに見える。それどころか、まさかやるとは思えないが、与野党首脳が政治生命をかけた消費増税すら封印しかねない姿勢を垣間見せている。4~6月の景気指数によって秋に政府が行う増税の最終判断で、14年4月実施の先延ばしがあり得ることをほのめかし続けているのだ。原発も安全なものから再稼働すると宣言して選挙に臨み、原発立地地域はおろか全国的にもほぼ完勝したにもかかわらず、慎重姿勢に転じた。原発新設に「国民的な理解を得ながら新規につくっていくことになるだろう」と述べていた方針を覆し、「直ちに判断できる問題ではない。安全技術の進歩の動向も見据えながら、ある程度時間をかけて、腰を据えて検討したい」と述べた。ここは産業空洞化を食い止め、景気回復を促進させるためにも、早期再稼働は不可欠なのだ。夢にも電気料金の高騰をインフレターゲット実現に“活用”しようなどと考えるべきではない。それこそ本末転倒となる。
安倍が公約に明記させた集団的自衛権行使の確立についても、官房長官・菅義偉は「行使できる環境を整備したい」と述べ、有識者会議で検討する方針を明らかにした。自民党では集団的自衛権の行使を可能にする「国家安全保障基本法」の制定まで決定しているにもかかわらず、今更「有識者」なる有象無象を集めて何を議論するのかと言いたい。憲法改正が伴う「国防軍」については「こ」の字も言わなくなった。何も有権者がそっぽを向いた日本維新の会の石原慎太郎のごとき極右路線を取れと言っているのではない。同盟国に対する集団的自衛権などは世界の常識だ。こうして何でもかんでも先延ばしで、まさに触らぬ神に祟(たた)りなしに徹しようとしているのが、安倍の政治姿勢の実態だ。はっきり言ってこれでは参院選に勝てない。八方美人では勝てないのだ。なぜなら保守回帰を求めた有権者は自民党圧勝の“核”を構成していたのであり、ネットでは早くも落胆ムードが横溢(おういつ)し始めている。安倍は、自らの参院選大敗を回想して、羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹いているときではない。ここは“びびって”あちこちに物欲しげな秋波を送っているときでもないのだ。獲得した294議席を背景に、景気対策以外の公約でも、“自重”よりも“打って出る”戦略に転換すべきだ。それこそが道を切り開くのだ。
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