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2013-01-11 00:00
「政策提言」に求められる具体策と分かりやすさ
鈴谷 誠
会社員
昨年末、中国のプロペラ機による領空侵犯が大きな問題となりましたが、昨日、今度は中国の戦闘機が尖閣諸島の周辺空域に接近するという事態が起き、それを多くのメディアが取り上げています。こうした中、私は国際政治事情の門外漢ではありますが、仕事でも、個人としても、中国との関係が深く、これからどうしたら良いか、そして日本全体として今、特に安倍政権において、どのような対中外交が求められているのか、真剣に考え始めました。日本政府による中国への対応を考える上で、昨日発表された世界平和研究所による「緊急政策提言」と昨年1月の貴フォーラムによる「第35政策提言:膨張する中国と日本の対応」は、とても示唆深いものだと思います。「緊急政策提言」における「外交・安全保障」の項目と「第35政策提言」の内容は、一見すると非常に良く似ていますが、良く読むと大きな違いがあるのではないかと考えました。両者はともに、中国に対する断固とした対応の必要性を指摘しつつ、中国への関与を重視している点で似ています。しかし、それぞれの描く対応策のビジョンに大きな差があるのでは、と思うのです。そしてまた、両者は、それぞれのビジョンを具体化する方法や政策的含意に乏しいのでは、と考えました。
世界平和研究所は、日米同盟の重要性を指摘しつつ、それを「共通の価値に基づいた強固な『海洋型同盟』とし、オーストラリア、ASEAN諸国、インドとの連携も含め、地域秩序安定化を推進すべきである」と指摘していますが、この「海洋型同盟」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。また、同盟とは、そもそも原則的には仮想敵国が想定されて、初めて成り立つものだと理解していますが、同盟を強化しつつ、中国以外の諸国(上記のオーストリアなど)との連携によって、地域の秩序安定を推進する、という議論のロジックが十分に飲み込めません。これは言い方を換えれば、中国包囲網のようなものに思われますし、それはむしろ中国の神経を逆撫でして、地域の不安定化につながるのではないでしょうか。無論、同提言には、近隣諸国(中国や韓国)との安定的な信頼関係構築の必要性も指摘されていますが、この指摘は、中国を包囲するかのような提言内容の後に出てくるので、説得力に乏しく感じました。
一方、貴フォーラムの「第35政策提言」の中でも、特に「提言5」は「多国間対応を『不戦共同体』に発展させ、中国も参加させよ」としている点で、より建設的に見受けられます。日米同盟の重要性を指摘しつつ、多国間での枠組みも同時並行して構築することを提起する中で、中国が「『中国包囲網』と受け取らないよう配慮する必要」にも言及がある点で、評価できるのではないかと思います。しかしながら、そもそも「不戦共同体」とは具体的に如何なるものなのでしょうか。また「多国間対応を『不戦共同体』に発展させ・・・」と述べていますが、「多国間対応」の例やその説明を読む限り、それらが果たしてどのように「不戦共同体」へと向かうのか、あるいはどのような方法や政策によって「不戦共同体」を実現するのか、十分に論じられていない印象を受けます。同提言は、肝心なこのポイントを「これらは基本的に、『ポストモダン』段階の国家による『不戦共同体』を体現したもの」としており、分かり難い。さらに同提言は、「理念的には中国の参加を排除するものではない」と続けていますが、では「理念」ではなく「実際」にはどうすればよいのでしょうか。
中・長期的なビジョンや理念を示すことは、「政策提言」の重要な役割のひとつであると思います。しかし、今回取り上げさせて頂いた2つの提言だけでなく、対中国外交についての諸提言の多くを読んでみて、いつも思うのは、具体性の欠如です。正直なところ、門外漢の私にとって、各提言内容は勉強になります。賛同できる理念やビジョンも数多くあります。しかし、いつも肝心のところが分からず、具体策が見えてきません。「政策提言」である以上、より「政策」に力点を置きながら、具体的かつ明示的にその内容を示していくことが求められているのではないでしょうか。専門家あるいは有識者といわれる方々の強みは、ビジョンや理念を提示するだけでなく、それを実現するための具体策を策定し、魅力的な形で世に提示できることだと思います。そうした方々の今後の研究・調査、そして政策提言を期待しつつ、私自身もまた勉強をしながら、考え続けたいと思います。
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