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2013-01-15 00:00
問われる安倍外交の構想力
鍋嶋 敬三
評論家
安倍外交がスピード感をもって始動したのは評価できる。政権発足後わずか2週間余でアジア太平洋諸国との直接対話を集中的に行うのは歴代政権の中でも異例と言ってよい。外交の基軸である日米同盟関係にもプラスの影響を与えよう。安倍晋三内閣の発足(2012年12月26日)直後の主要国首脳との電話会談に始まり、韓国への特使派遣、岸田文雄外相の東南アジア、豪州歴訪と続いた。首相自ら1月16日から初の外遊先としてベトナム、タイ、インドネシアを訪問して、アジア外交の基本的方向を示す「安倍ドクトリン」をうたいあげる。3年半の民主党政権下で揺らいだ日本外交の座標軸を立て直し、日本に対する世界の評価を高められるかどうかがかかっている。そのためには領土主権など国家の基本的問題で主張を曲げずに世界に訴える一方、多様性に富むアジア諸国から広範な理解を得られるような腰を落としたアプローチが必要だろう。
首相による3カ国をはじめ、外相のフィリピン、シンガポール、ブルネイ、オーストラリア訪問(1月9日-14日)を含めて東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要国を回ることになる。安倍首相は安全保障、経済、エネルギーの3分野で価値観を共有する諸国との連携を推進する考えを明らかにしている。アジアといっても一様ではない。一人当たり国民総生産(GDP)で日本を上回る先進国のシンガポールから最貧国のミャンマーまで経済発展の差は大きい。対中国関係では、領土主権が脅威にさらされているフィリピンやベトナム、領有権紛争はあるものの対決型ではないマレーシアやブルネイ、中国とは安全保障面での協力関係もあるタイ、インドネシア、シンガポールなど様々だ。ASEANの外縁にあるインド、オーストラリアは、日本にとっても戦略的に重要な位置にあるが、対中警戒感が強いものの安全保障面を含めて関係を深めていこうとしている。Pax Americana(米国による平和)の時代がいずれ終わりを告げるとの認識があるからだ。
米国の国家情報会議(NIC)が2012年12月に発表した報告書『Global Trends 2030』は、新興国の急速な興隆によって2030年までに米国による「一極時代」は終わり、世界は多極化すると予測している。その背景には2030年の数年前には米国を超える世界最大の経済力となる中国の存在があり、国連安全保障理事会、世界銀行、国際通貨基金(IMF)といった第2次世界大戦後西側が支配してきた世界機構が新興経済大国によって変化を余儀なくされるとの見通しがある。報告書は、国際システムの変化によって「国家間の紛争のリスクが増え」、ますます多極化するアジアは「しっかり根付いた地域安全保障の枠組みを欠いているため、世界最大の脅威の一つになる」と予測している。巨大化する中国への恐れ、米国がこの地域に関与し続けるかという疑問などが、不安定を助長すると分析している。
アジア諸国で2010年以降、軍拡の動きが急速に進んでいるのも、このような情勢の不安定化を反映したものだろう。安倍外交が直面するのは、このような不確実性に富んだ世界である。今年は日本ASEAN友好協力40周年の節目の年に当たる。12月には日・ASEAN特別首脳会議が日本で開催される。日本にとっては戦後賠償も含めた経済協力で培ってきたASEANとのパートナーシップを強化して日本外交の足元を固め直す好機である。「絆」を固めるには新たに形成されるべき国際秩序の中で日本がどのような役割りを自らに課し、いかなるプロセスで実現するかについて、アジアの人々の共感を得ることが大切ではないか。安倍外交の構想力が問われるのである。
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