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2013-01-16 00:00
経済再生の第4の矢として適正価格確保政策を推進せよ
玉木 洋
元大学教授
金融緩和、財政出動、成長戦略を3本の矢とする安倍政権の経済再生政策は、大いに期待できるものであり、既に安倍政権が予期されるようになって以後市場も継続的に好意的な反応を示し続けている。1月11日の閣議決定を受け、その本格的展開が期待される。しかし、この20年ほどの間の経済の実態を踏まえると、本格的な経済再生・デフレ脱却のためには4本目の矢を追加することが必要であると思われる。それは、各事業者が適正な利潤を確保する適正な価格を回復するための「適正価格確保政策」である。私は経済学の専門家ではないが、この20年ほどの間の日本で発生している価格低下は、全体的な需要減少等の背景に加えて、廉価な海外製品の輸入やこれとの競争、官公庁の調達における価格優先の入札優先主義など様々の要因があるというのが実態だと感じている。その結果各種の取引価格の実態は、多くの事業者が適正な利潤を確保できる水準を大幅に下回るものとなっている。それが、下請けへのしわ寄せ、品質低下、不適切な事業執行、雇用へのしわ寄せ(削減、非正規雇用の増加、賃金低下)等々、そして最後にはそれでも吸収しきれない経営悪化、倒産等をもたらし、日本経済に大きな悪影響を与えている。このような価格破壊状態を脱却するためには、全般に効いてくるはずの金融政策や財政政策に加えて、適正利幅を失わせている個別の要素について対応することが必要であると思われる。
一つには、価格至上主義の修正が必要であろうと思われる。官庁調達に関して会計法は入札を原則としてはいるが、他方で理由があれば随意契約も正当なものとして認めており、また、適正な価格での入札が必要であるということも認められている。しかし、今日、天下り組織への不当な優遇を避ける、ということが過度に行きすぎて、競争入札がより広く行われる結果、不況による受注難とあいまって実質的赤字受注が増大している。なぜなら受注難の時期には各社は赤字であっても(可変費用がなんとかまかなえるぎりぎりまで)価格を下げて、応札に向かわざるを得ないからである。安値の場合には執行可能か調査することもあるが、役所側も支出を軽減したいし、応札業者も執行できると説明して仕事を取りたいのでは、やはり無理な赤字受注になりがちである。下請け事業者への調査では、社会保険にすら加入していない会社との価格競争に勝つためには、結局赤字受注はやむを得ないなどのケースが回答されており、同様のことがあると推測される。このため品質保持も、業務の継続性も、適正利潤の確保も、困難な場合が多くなっている。シンドラー社のエレベーターによる死亡事故についても、安全性を含めた機器の性能や管理業務の継続性による安全性の確保などの点が、価格最優先の入札により十分確保できなかったことが、大きな要因となっている。また企画競争入札であっても、その多用は事業者に過度の負担をかけるものであり、結果として今日幅広い事業者の経営悪化等を招いている。また、特に調査研究業務や継続的な事業については、価格だけでは決めがたい部分が多く、仕様を形式的に特定しがたいものがあるため、事実上のダンピングもおきやすく、品質と適正利潤を確保するためにも、随意契約をより幅広く認める必要性が高いと考えられる。
また、WTO等貿易関係のルールに適合する範囲内で、またルールを必要に応じ見直す努力を含めて、輸入品を含めて事実上のダンピングには厳しい対応を検討する必要もあるのではないだろうか。例えば、生産段階で安全性や環境配慮や労働条件確保等に必要な費用をかけていないことが原因で安値輸入が行われていると認めうるものは、我が国の政策として厳しい対処を行うが必要かもしれない。また、大規模小売事業者やネット販売事業者による低価格供給については、アフターサービスや実物店舗での展示や説明にただ乗りした上で成り立っている面もあり、従来の形態の小売り業も併存できる程度に、また膨大な数量の取引がなくても生産から流通の各事業者が必要な利益を確保できるように、適正な利益を確保できる価格が維持できるような方策を考えるべきではないだろうか。甚だしい場合には、独占禁止法の不当廉売の規定を実態に合わせて広く適用して行くことも検討されるべきであろうし、例外的に認められるカルテルの適用範囲を拡大方向で検討することも必要かもしれない。また、大規模小売店舗の規制に関しては、今さらかもしれないが、これが地域経済や地域の都市問題(都市中心部のいわゆるシャッター商店街など)に大きな影響を及ぼしたことをも踏まえて、運用の改善あるいは規制の再強化も検討すべきかもしれない。
このたび閣議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」においても公共事業に関し「契約価格の適正化」が盛り込まれているのは、上述のような適正価格の確保という観点から極めて適切である。しかし、公共事業に限らず、他の分野においても、価格の異常な低下によるさまざまの支障が生じており、適正利潤を確保するという意味での、適切な政策的対処が必要であり、このためには、必要に応じて規制強化も行うべきであろう。このような適正利潤確保政策は物価上昇に繋がるものではあるが、適正なインフレによる経済回復のために必要有益なものであるとともに、限られた資源のより少ない消費で利益を確保するという意味で、長期的には環境保全、資源有効利用、と経済発展の両立という面からも意味あるものである。また、適正利潤の確保を通じ、より少ない生産、より少ない労働で利益を確保するものとなることから、企業の経営内容の改善とより良質の雇用の確保に繋がるものである。適正利潤を確保できないような価格破壊や著しい物価の低下が、短期的には消費者の利益になったように見えて、結果としては中小零細から大企業に至るまでの各企業の業績の悪化と、そこに働く労働者の給与の低下や雇用問題(失業、非正規雇用化)の結果をもたらしたことの反省に立って、「過度の価格低下は消費者のためでもない」との認識を踏まえて、適正価格確保政策を経済再生政策の第4の矢として進めることを提案したい。
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