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2013-01-21 00:00
米の真意は日中軍事衝突回避にある
杉浦 正章
政治評論家
「日米同盟が強化された」などと手放しで喜ぶのは、方向音痴もいいところだ。米国務長官クリントンと外相・岸田文男の会談から浮かび上がるものは、逆に何としてでも「偶発戦争を阻止したい」という米政府の強い決意だ。東シナ海における日中軍事衝突は、南シナ海に飛び火し、これに米軍がかかり切りになれば、中東情勢にも火が付く。米国は多正面作戦を強いられ、世界情勢は混乱の極みとなるのだ。米国の世界戦略から見れば、クリントンの本音は、紛れもなく日中対話路線にあることを見逃してはならない。米国は尖閣問題について当初は、同諸島を「日米安保条約の適用範囲」としながらも、「2国間の領土問題には立ち入らない」という伝統的な姿勢を堅持してきた。ところが、その方針を変え始めたのが、中国機による領空侵犯だ。12月13日の中国国家海洋局のプロペラ機による領空侵犯に対して、米国は「尖閣に日米安保条約が適用される、と分かっているのか」と中国をにかつてない強い姿勢で警告した。しかし、確実に習近平の後押しがあるとみられる軍部は、テレビメディアを使って対日戦争ムードを煽りにあおり続けている。「尖閣戦争」を想定した番組を連日のように放送しているのだ。習近平は3月に国家主席になる前の国内基盤固めに尖閣問題をフルに活用しているのだ。
一方、日本にも右傾化志向の安倍政権が誕生して、「領空、領海侵犯には断固として対応する」姿勢が鮮明になった。防衛相・小野寺五典は領空侵犯機に対する曳光弾発射について、「国際法と自衛隊法に基づき対応する」として発射を認める発言をした。これに対して解放軍少将・彭光謙が「それは開戦の一発を意味する。ただちに反撃し、2発目は撃たせない」といきまいた。“雑魚”がいきまいてもたいしたことではないが、メディア上ではまるで軍事衝突前夜、一触即発の様相すら示すに至った。こうした状況を見て米国政府部内には、にわかに危機感が高まった。その結果のクリントンによる岸田への「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」発言となったのだ。明らかに米国は、中国側の米国は尖閣紛争に乗り出さないという“誤判断”に警告を与えたのだ。日米同盟のきずなを試そうとしている中国への強いメッセージでもある。しかしクリントンの本音は別の発言にある。岸田に「尖閣を巡る事件事故を防ぐことが大事だ」と強調している点だ。尖閣での偶発的武力衝突など不測の事態を懸念しているのだ。これを裏打ちして、クリントンは「日中の対話で平和的に解決することを求める。緊張を高めるいかなる行為も望まない」と日本政府に強くクギを刺した。
驚くべきことに、9月の尖閣国有化以来民主党政権は、対中対話の「た」の字も行おうとしていない。安倍政権になって、安倍が中国大使・程永華と秘密裏に会談をし始めた。その一連の動きの中に1月22日からの公明党代表・山口那津男の訪中が位置づけられる。安倍の習近平宛ての親書を託すのだ。新政権として初の対中瀬踏みが動き出すことになる。筆者がかねてから主張しているように、緊迫した両国関係には対話の開始が不可欠である。このままでは対中戦争論の“大馬鹿路線”と、中国軍部の雑魚たちの“阿呆路線”の激突になるだけであって、まさに馬鹿と阿呆の絡み合いになてしまう。両国関係のみならず世界情勢が危機となるのだ。だいいち“大馬鹿路線”で日本が対中戦の口火を切ることなど戦略的に見ても論外だ。戦争はあくまで中国側の仕掛けで始まらなければならない。真珠湾攻撃やフセインのクエート侵攻の失敗が物語るものは、戦争勝敗のポイントは、国内世論をいかに統一し、国際世論の同情を買うかにある。真珠湾攻撃への米国内の激昂が太平洋戦争のエネルギーとなったように、世界で好感度1位の「不戦の日本」が、中国の侵攻を受けた“構図”をまず作りだすことが第1だ。従って戦略上も日本側から攻撃の端緒を開くことはまずあり得ない。
中国も、かねてから指摘しているように、日米連合軍に尖閣戦争で敗れれば、共産党政権のアイデンティティとレゾンデートル、つまり存在意義と存在理由とが失われ、1党独裁が崩れる危機に陥るのは確実だ。共産党政権の レジティマシー(正統性)が地に落ちるのだ。従って双方共に拳を振り上げても、その落としどころが全くないのだ。だからここはクリントンがいみじくも指摘したように、選択肢は「対話」の早期実現しかあり得ない。対話を実現すればそれが継続している間は、中国側の尖閣占領はありえない。日本側が尖閣に公務員を配置したり、船だまりを作るようなこともできない。対話継続による平和が維持されるのだ。もちろん対話を始めれば中国側は「日本が尖閣に領土問題は存在しないとする従来の主張を取り下げた。尖閣が係争地になった」と宣伝することが可能となるだろう。日本側は意に介する必要は無い。「領土問題は存在しないことを世界に周知するための対話であって、交渉ではない」と位置づければよいだけだ。物は言いようなのだ。要するに、ここは知恵を出すところだ。おそらく安倍と程永華との一連の秘密会談は、ここがポイントであったと容易に推察できる。その流れを受けての山口訪中となったと見るべきだろう。山口は日中首脳会談を提案することになりそうだが、これが一気に実現するかは全く予断を許さない。しかし今後生ずるであろう様々な接触を通じて、打開を図ろうとする姿勢こそがまず第一に必要な場面である。
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