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2013-02-01 00:00
危険極まりないネット選挙解禁
杉浦 正章
政治評論家
これまで度々実施しようとして実現しなかったネット選挙が、夏の参院選挙から解禁となりそうな情勢となってきた。最大の理由は「ネットだけが味方」と訴えて、ネトウヨ(ネット右翼)に支持されてきた首相・安倍晋三が積極的であるからだ。参院選挙でも有利な自陣に引き込もうというわけだ。しかし、そうは問屋が卸さないのがネットの世界。西部劇のように“早撃ち”の悪漢が虎視眈々と狙っている。生き馬の目を抜く世界だ。様々な化け物、魑魅魍魎(ちみもうりょう)も住んでいる。中国あたりからサイバー攻撃を食らう可能性も否定出来ない。自民党が1月31日にまとめた公職選挙法改正案によると、これまで公示後は禁止されてきたウェブサイトの更新、電子メールの送受信に加え、ソーシャルメディアの利用も認める方向だ。ソーシャルメディアとはフェイスブックやツイッターなど今流行のウエブサイトだ。2月中に議員立法で法案を提出し、夏の参院選からの適用を目指す。主要政党はおおむね賛成だ。古色蒼然たる選挙法が時代の要請にマッチしたものとなることはご同慶の至りだ。何度も実現しなかったのは、ひとえに各党長老らが若い候補に有利になるとして、つぶしてきたからに他ならない。しかし、運用次第では選挙に大混乱を来す“両刃の剣”であることを忘れてはならない。
選挙の要点「カバン(資金)、看板、地盤」のない候補に道を開くものになる、というのが法改正のキャッチフレーズだ。ネットの伝搬力は、使い方によってはビラやポスターを軽くしのぐものがある。しかし、本当にカバンがなくても選挙が出来ると見るのは甘い。なぜなら閲覧頻度の高いサイトに仕立て上げるには何と言っても資金力が物を言うからだ。安倍のサイトがよく見られるのは、緻密な計算に基づいて莫大な費用をかけて作り上げているからだ。安倍が一人で作っているわけではない。かかりっきりのスタッフがいなければ維持できない。従って、プロの業者に頼むことが最大の近道だ。ネット選挙解禁が報じられた31日は、そのネット関連企業・デジタルガレージの株価が大反発、一時前日比1万8000円(8.7%)高の22万5000円まで上昇した。これが物語るところは、ソーシャルメディア関連企業や広告業など“業者”が儲かるということであり、金はかかるのだ。またメール解禁と言うが、これもメルアドをいかに獲得するかで勝負が決まる。それにはやはり資金力だろう。
オバマはネット献金で再選を獲得した。電子メールを大量に送って個人献金を呼びかけた。その結果、総額3億4千万ドルもの個人献金を集めることができたのだ。日本でもネット献金はある。楽天が運営している政治家や政党への献金サイト「楽天政治LOVE・JAPAN」だ。すでに300人近くの国会議員がアカウント持つており、2009年に開始して以来、献金額はうなぎ登りだ。といってもオバマの規模にはとても達せず、最多となった衆院選直前の11月で総額約410万円。サイトを開くと、あいうえお順に政治家約300人が、がん首を並べており、名前をクリックしてクレジットカードで献金できる仕組みだ。しかし、これもなりすましで献金をせしめるネット詐欺師を横行させることになりかねない。ネット選挙解禁と並行して、ネット献金への警察の監視も重要だ。さらに混乱要素としては、候補者のコンピューターへ侵入して情報を操作するハッキング、偽情報の流布、ネガティブキャンペーンの展開、掲示板をめちゃくちゃな書き込みで“炎上”させるなどの行為が横行する可能性がある。
現にオバマは選挙中「イスラム教徒説」が流布されて、防戦にかかり切りとなった。候補同士の攻防などまだ序の口で、かわいいものだ。例えば、サイバー攻撃の巣窟(そうくつ)である中国から選挙妨害の手が入ったらどうなる。31日明らかになったところによると、ニューヨーク・タイムズは、去年10月に「中国の温家宝首相の親族が1000億円以上に上るばく大な資産を蓄えている」と伝えたころ、中国からのサイバー攻撃を受けて、すべての従業員のパスワードが抜き取られた。同紙は「記事に対する報復で、中国の軍が関わっている可能性がある」としている。中国の特殊機関でも、軍でも、民間でも、選挙でサイバー攻撃を仕掛け、特定の政党や候補に不利になるように操作されたら、選挙は成り立たない。要するに、一口にネット選挙解禁といっても、クリアしなければならない問題は山積している。法案を早期に成立させても、混乱なしに選挙を実施できるかどうかは、実におぼつかないという側面があるのだ。ネットは選挙運動の自由度を広げ、国政への参加の機会を拡大させることは確かだ。しかし、容易に選挙運動ができるということは、容易に選挙妨害ができることでもある。政府がよほど厳重な監視態勢を構築しない限り、選挙が西部劇の場となる。
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