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2013-02-07 00:00
危機管理の基本知識を普及させよ
河村 洋
外交評論家
安全保障の脅威が非伝統的な分野にまで拡大する傾向が強まるにおよんで、国家や企業の指導者にとって危機管理能力を備えることがきわめて重要になってきている。しかし、彼らが危機管理を習得するのは、ほとんどOJTベースであり、大学の学部や大学院でその基本概念が教授される機会が充分とは言えない。考えてみれば、経済、外交政策、国防、行政などの政策分野は、社会科学の中核となる分野である。冷戦後の新しい安全保障環境下で、全世界の市民の間では危機管理の理解がこれまで以上に広まることが必要になる。
危機への対処方法はアクターによって異なる。国家アクターと非国家アクターとでは、対処の仕方に大きな違いがある。国家アクターには危機解決の最終手段として武力の行使が認められている。他方で非国家アクターの場合は植民地重商主義時代の東インド会社とは異なり、反乱分子、テロリスト、その他の自分達の死活的権益を脅かす相手を打ち負かすような武装をすることはない。よって、主権国家こそが危機管理の最終的な解決手段を持っていることになる。となれば、一般公衆は政府の動向を見守るとともに、政府への影響力の行使と協調のためにも、高度に教育されている必要がある。
そこで二つの事例をとりあげたい。一つは、2011年の東日本大震災と津波がもたらした福島原発事故である。これは、原子力発電所が自然災害に見舞われるという人類史上初の事故で、チェルノブイリやスリー・マイル島の場合とは違い、そのような事態を想定したマニュアルはなかった。日本では当時の菅直人首相への批判が一気に高まったが、それというのも、メディアと一般市民が危機に狼狽したからである。彼らは菅氏の行動の個別の誤りにばかり気をとられて、危機に対処するための政策と管理能力については十分な議論がなされたとは言えない。もう一つは、今年になってからアルジェリアで起きたイナメナス人質事件である。犠牲者は多国籍であったにもかかわらず、アルジェリアのブーテフリカ政権は、テロリストの打倒を優先させるあまり、人質の安全には充分な考慮を払わなかった。アルジェリア政府は、米英仏などの特殊部隊の方が対テロ作戦と人質の安全のバランスをとる技能に長けているにもかかわらず、外国軍の介入の要請を一顧だにしなかった。
メディアを含めて、危機管理についてのわれわれの知識は、あまりにも少ない。このままでは、われわれは危機における指導者の行動について誤った判断を下すことになるかも知れない。すなわち、刻々と変化する事態を感情的に評価してしまいかねないのである。よって、危機管理への理解と問題意識の普及が必要である。シンクタンクや民間の財団は一般国民への教育のためにフォーラムや講演会を主催することができる。こうしたイベントはインターネット・ビデオなどを通じて誰にも公開されたものであることが望ましく、限られた会員だけのものにすべきではない。また、もっと多くの大学の学部以上のレベルで、危機管理の基本概念が教授されるべきである。国家や企業の優秀な指導者となるには、この分野について包括的で体系的な理解をもつ必要がある。危機管理への訓練を大幅にOJTに依存することは、あまりにも危険である。
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