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2013-02-12 00:00
中国と戦略対話の再構築を急げ
鍋嶋 敬三
評論家
中国軍艦による海上自衛隊の護衛艦とヘリに対する射撃管制レーダー照射(2013年1月下旬)は軍事衝突一歩手前という極めて危険な事件だ。浮き彫りにされたのは中国の意図と政策決定システムの不透明さである。人民解放軍の「独断」説が一部で伝えられるが、軍の行動を決定している主体は何か。共産党独裁の中国では軍の統帥権は中央軍事委員会主席を兼ねる党総書記(習近平)が有し、「解放軍が党の意思を離れて独断的に行動することはほとんど想定できない」(防衛省防衛研究所編「中国安全保障リポート2012)という前提で考える必要があろう。今事件で中国側の対応が一つのパターンを示している。日本政府は2月5日事件を公表、中国に抗議した。中国側の反応は6日「報道で知った」という外務省が「日本が事実をねじ曲げた」という国防省の発表を待って、8日に「日本の完全な捏造(ねつぞう)」との否定談話を出した。
2010年、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件に対抗する黄海での米韓合同演習の際も、軍高官が「断固反対」を表明した一週間後に外務省が同じ見解を出した。2007年の人工衛星破壊実験でも国防省先導・外務省追随のパターンが示された。軍と政府の外交部門間で事前の政策調整が制度化されていない問題点をリポートは指摘している。海洋権益の保護が中国の戦略的課題になっている中で、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚を含む海域防衛(海防)で海軍と海監、漁政などの海上法執行機関との連携が着実に進展している。2009年の米音響測定艦「インペカブル」に対する中国軍艦・公船による包囲、妨害事件が典型である。尖閣諸島をめぐつて海監などの領空、領海侵犯に合わせて海軍哨戒機、空軍戦闘機による領空接近が頻発、そして軍艦からの射撃管制レーダー照射へと圧力を段階的に高めてきた。この事件は領土、領海防衛に強い決意を示す安倍晋三内閣や日米安保条約で尖閣防衛を明言する米政府の反応を探るため、党中央が容認したとみることも可能だ。マカオの評論家が中国の公式反応が出る前の6日に「上層部の同意を得た可能性がある」と論評した。
日本はどのように対応すべきか。第一に、同盟国の米国との連携を一層強化しなければならない。米国務省は2月11日、日本の立場を支持する見解を示したが、日本政府は日米協力のため集団的自衛権の憲法解釈変更などの法的整備を急ぐ必要がある。第二に、首脳、実務各レベルの対話チャンネルの再構築を急ぐべきである。安倍首相が親書を習総書記に送り、習氏も「関係改善」の意思を示した。安倍首相に対しては第一次内閣で最初に中国を訪問した実績への「高い評価」(習氏)もある。偶発的な軍事衝突を避けるために中断している海上衝突予防メカニズム構築への話し合いの再開を急ぐ必要がある。ことが起きてからでは遅い。政治、実務レベルでの意思疎通を充実させることが、当面の日中関係改善には欠かせない。
第三に、国際的な世論対策を進めるべきである。2月上旬、マレーシアの新聞に香港在住ジャーナリストの論評が掲載された。その見出しは「三賢人派遣で中日雪解け」「中国のイニシアティブで雰囲気改善」であった。三賢人とは鳩山由紀夫元首相、山口那津男公明党代表、村山富市元首相である。北京に招かれた3人はそれぞれ、尖閣問題を領土紛争と認め、南京事件を謝罪、尖閣棚上げ論、歴史問題の謝罪(村山談話)などで緊張緩和に貢献した、と記事で評価された。記事はアジア地域に配信され、日中関係への見方に影響を与えるだろう。中国は「三戦」(心理戦、輿論戦、法律戦)を戦略的に進めている。中国に有利な国際世論を醸成するためである。政府は尖閣問題で日本の主張の正当性を伝えるポジション・ペーパーを外務省ホームページに公開しているが、それだけでは不十分だ。アジアや欧米の有力紙誌に首脳レベルで寄稿、テレビ・インタビューなどを積極的に進めるべきである。「日本が正しいのだから世界は理解してくれるはず」などという「お人好し」外交では、中国のしたたかな外交に負けるのである。
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