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2013-03-26 00:00
TPP、この好機逃せば日本に明日はない
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三首相が3月15日に環太平洋連携協定(TPP)交渉参加を正式に表明した。日米首脳会談(2月22日)の共同声明で「包括的で高い水準の協定達成」を確認したが、7月の参院選挙を控え国内調整という高いハードルが目の前にある。TPP参加国のマレーシアのムスタパ通商産業相は19日「日本の円滑な参加を支持する」と早々と歓迎の意を示した。日本国内の世論調査でも参加を「支持」(63%)が「不支持」(27%)を大きく上回った(毎日新聞)。安倍首相が「日米が新しい経済圏を作る」ための「国家百年の計」であり「今がラストチャンスだ」と訴えたのが国民に大方受け入れられている。しかし自民党はコメなど重要品目の「聖域を守れ」の大合唱で首相に足かせをはめており、首相とのギャップは大きい。
TPPをめぐる日米間のギャップも見逃せない。安倍首相がTPPが「我が国の安全保障、アジア太平洋地域の安定に寄与」し、東アジア地域包括的連携協定(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の「ルール作りのたたき台になる」と地域の新経済秩序に向けた意義を評価しているのは正しい。だが、オバマ米大統領はもっと大きく世界的な構想の一部としてTPPを進めているのだ。目指すところは第2次大戦後、半世紀を経て変化の著しい世界の秩序の作り直しである。第2の経済大国にのし上がってきた中国をはじめインド、ブラジルなど新興国の力が増し、米国のパワーが相対的に低下してきた現実を踏まえた多極化世界を米国の主導の下で再構築する試みである。オバマ政権のアジア太平洋への「回帰」は最近では「再均衡(リバランス)」と言及されることが多い。国家安全保障担当のドニロン大統領補佐官は3月11日の講演で再均衡について「軍事、政治、通商、投資、開発、諸価値など米国のパワーのすべての要素を活用する努力」と定義した。
再均衡とは、軍事的には兵力の再配置(普天間問題はその一部)だが、経済的にはTPPが中心になる位置付けだ。ドニロン補佐官は「TPPはアジア太平洋における戦略的コミットメントの究極の表明である」と言い切った。米通商代表部(USTR)のマランティス代表代行は19日の議会証言でTPPを「大統領の通商政策の旗艦となるイニシアティブだ」と述べ、「2013年末までの交渉完了」を一般教書で公約した大統領にとっての政治的重要性を強調した。TPPには21世紀のアメリカの再興がかかっているのだ。オバマ政権にとってTPPはグローバルな経済構想の「一部」(ドニロン氏)に過ぎない。米国は欧州連合(EU)との間でも環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)の交渉準備を進めており、TPP と合わせれば世界貿易の60%を占める。太平洋から大西洋に至るまで強力な経済的パートナーシップのネットワークを張ることでグローバルな秩序を構築する戦略的な狙いがある。日本と欧州連合(EU)が25日に経済連携協定(EPA)の交渉開始で首脳合意したのは日本のTPP交渉参加が影響を与えた。日中韓も含めた自由貿易圏作りが世界的なうねりとなってきた。
安倍首相は「聖域死守」にこだわる国内政治圧力との深いギャップを背負いつつ、「オバマのアメリカ」との交渉に立ち向かわなければならない。日本が「聖域外し」のために多国間交渉を難航させるようだと、日米が主導する21世紀の国際秩序作りという本来の目標が絵に描いた餅になる。首相の参加表明以前から米議会調査局は日本の国民総生産(GDP)が米国以外の参加10カ国の合計よりも多いという日本の「重み」に注目したTPP報告書を作成していた。米国にとっても日本の参加への期待はそれだけ大きい。「貿易立国」という日本の指針は明治以来変わることはなかった。自由化に伴う産業の構造調整は避けて通れない時代の要請である。個々の業界の死活的利益は1億2000万人の国民を養わなければならない日本という国家の死活的利益と同義語ではない。TPPのルール作りという好機を逃しては世界に生きる日本の明日はない。
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