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2013-05-03 00:00
尖閣諸島問題に「暗黙の了解」はあったのか?
鏡 武
元外交官
尖閣諸島問題に関する中国側の攻勢が目立っているが、その重要な背景の一つとして、本問題の棚上げに関する「暗黙の了解」の有無という点がある。中国側はこの問題を棚上げにするということで、日中間で「暗黙の了解」があったとして、日本政府による昨年の国有化措置を「了解」違反として非難し、日本側に非があるとしている。日本国内においても、中国側の主張に理解を示し、「暗黙の了解」があったと指摘する人もいる。日本政府は、そうした「暗黙の了解」は無かったと説明しているので、現状は、一種の水掛け論に近くなっている。だが、この「暗黙の了解」の有無については、その言葉が意味するところを、更に分析することにより、一定の答えが出てくるのではないだろうか。なぜなら、当時の事情について書かれたものを読めば、この棚上げに関して、日中間で受け止め方に違いがあると思わざるを得ないからである。
本問題を棚上げとする発言がなされた重要な機会として、1972年周恩来の田中総理への発言の際と78年の鄧小平の発言の2つがあげられている。中国側は、それぞれの時点で、尖閣問題を突っ込んで議論することは好ましくなく、将来まで詰めないでおこうとの趣旨の発言をした。しかし、日本側は、このいずれの場合も、特段の発言をせず、その無反応が中国側によって、彼らの考えに対する「暗黙の了解」があったと解された。しかし、日本側の無反応を、そのように解すべきだろうか。むしろ日本側としては、国交正常化(72年)、平和友好条約の批准書交換(78年)という重要な外交的節目に際し、この尖閣問題に関する意見の不一致を対外的に鮮明にして、雰囲気や状況を台無しにしたくなかった。そのため、中国側の言ったことに敢えて異を唱えず、自国の立場を発言しなかったと解するのが自然ではないだろうか。
日本国内でも、この無反応をもって、日本側が中国側の申し入れを了解したと説明する向きもあるが、はたして、そうであろうか。中国側が言うように、仮に、棚上げ論を将来まで続く永続性のある了解にしたいと日本側も考えたのであれば、その時点(72年と78年)ではっきり中国側の申し出に賛意を示していたであろう。むしろ逆に、何らかの賛成の意思表示を敢えて示さない理由があるだろうか。その際の日本側の頭にあったのは、単にその場、その時点において重要な外交的な節目を台無しにしたくないという短期的な配慮だったと考えられる。つまり、その場で反論しなかったのは、その場だけ中国側に付き合ったのであり、それを以後、尖閣問題をいつまでも取り上げないという意思表示をしたわけでもなく、まして尖閣に領有権問題は存在しない、という日本側の従来の主張を取り下げたわけでもなかった。また中国の考えに付き合って尖閣に対して以後、どのような実効的行動をも控えるなどと約束したつもりもなかった。
実態がそうであれば、ここに両国の間に、棚上げに関し、はっきり了解の違いが存在していたと思われる。中国側は、上記の2つの時点で問題を詰めないということをもって、その後も継続的に棚上げという方法を維持すべきだとの考えを述べた。言い換えれば、「時間的継続性」をもった「棚上げ」にしたい考えだった。それに対し、日本側は、その時点をしのぐだけの便法としてそれを受け入れた。つまり、時間的には,その一時点だけの措置であり、「時間的継続性の無い」棚上げのつもりであった。78年に鄧小平が同じ発言をした際に、日本政府が無反応だったことをもって、72年の「暗黙の了解」が日本側によって確認された、との説明もあり得るが、むしろ、日本側としては、78年においても、72年の「了解」の時と同様、その場しのぎのやり方として無反応を示しただけと解される。
言い換えれば、日本側は、72年に示された中国側の「継続的棚上げ案」に同意していなかったから、この78年の時点でも鄧小平の同趣旨の発言に対し、敢えて賛意を示さず、無反応に終始したのであろう。実態がこのようであれば、二国間で棚上げに関する「暗黙の了解」があったのか否か、と聞かれれば、正確には、中国側の考えているような、継続性のある棚上げについて共通の「了解」はなかった、としか言いようがないだろう。中国側は自分たちが理解したことを、日本側も同様に考えたと勝手に解釈して、了解があったと主張しているが、日本側の理解は中国側のそれと異なっていたのである。自分たちの一方的な解釈をもって、両国間に共通の了解があったとする主張は、日本としては受け入れられないであろう。
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