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2013-05-06 00:00
(連載)日露首脳会談をどう評価すべきか(3)
袴田 茂樹
日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
日露が、首脳間の信頼関係を基にして、新たな関係を構築しようという両国の姿勢は肯定的に評価すべきだ。ただ、これで北方領土問題が解決に向かって前進すると考えるのは幻想である。日本人の幻想の最大の原因は、プーチン大統領の胸先三寸でこの問題は如何様にも決められる、と多くの者が考えていることだ。あるいは、人脈とか外交テクニックで対処できると軽く考えていることだ。国際社会では主権問題が国家にとってどれほど重大な問題か、尖閣や竹島への中国、韓国の対応を見れば分る筈だ。
ロシア国内ではちょっとしたきっかけで反プーチン運動も盛り上がるし、プーチンは決して盤石の強い大統領ではない。積極的にプーチンを支持する国民は2~3割に過ぎない。しかも大国主義やナショナリズムの政策が推進されているロシアで、プーチン政権が依拠しているのは、まさにこのナショナリズム政策に感応する保守的国民と、領土問題では強硬派のシロビキ(軍、治安関係者)だ。到底、プーチン大統領が簡単に領土問題で譲歩出来る状況ではない。
わが国の新聞も次のように伝えている。「社会が保守化する現状で、日本への2島引き渡しも難しい」(ロシア外交筋)「特に北方4島の経済開発に力を入れ、自国の領土だとの主張を強めている」(日経4.30)、「『領土問題は存在しない』。事務レベルでロシア側の姿勢は強硬で、歯舞、色丹の2島返還どころか、ゼロベースの構えだった。首相周辺も、予想以上に固いんだと漏らすほど。領土交渉には暗雲が立ち込めている」(産経4.30)、「日本はこれまでの合意文書に触れるよう強く求めてきた。言及がなけれが経済関連の合意文書を取り下げる構えもちらつかせた。ロシア側は難色を示したが、28日の夜、日本の主張を取り入れる考えを伝えてきた」(読売4.30)。北方領土問題で、日本に広がっているプーチンへの期待論や楽観的幻想とはまったく異なるロシア側のこの硬い雰囲気は、筆者がこれまで口が酸っぱくなるほど指摘してきたことだ。この問題に関するロシアの態度は依然としてシビアであり、安易に甘い幻想を抱くべきではない。プーチンの「ヒキワケ」論に踊らされ上滑りの楽観論を広めた政治家やマスコミは、じっくり反省して今一度冷静かつリアルに事態を認識すべきだ。
このような現在のロシア国内の客観的な状況を前提として考えれば、今回は安倍首相も外務省も、最大限頑張ったと言えるし、その努力は高く評価すべきだろう。安倍首相もプーチン大統領も、長年解決できなかった領土問題解決の魔法の杖はないし、すぐに解決できる問題ではない、と述べた。国家主権にかかわる問題だけに、何十年かかろうとも、諦めず粘り強く対応するほかはない。日本としては、ポーズとしてではあれロシアが「交渉の再開」とか「加速化」で合意した以上、この合意を梃子にして平和条約問題の解決を強く求める以外にない。両国が相互利益の立場で経済協力を進めることはたいへん重要である。しかし、平和条約問題を置き去りにして経済だけが進展する状況は、主権問題の重要さ、日本の国家の尊厳という立場からも、容認すべきではない。安易な対応をすると、直ちに尖閣問題その他わが国の安全保障、外交政策全般に波及するだろう。(おわり)
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