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2013-05-07 00:00
参院勝利なら臨時国会で改憲発議目指す
杉浦 正章
政治評論家
連休中の特筆すべき政治情勢は憲法改正が戦後初めて具体的に首相の政治目標として動き出したことだ。正面切って参院選の争点に改憲を掲げた首相・安倍晋三の発言からは、不退転の改憲路線が感じられる。なぜこの時点かと言えば、千載一遇のチャンスが到来したと判断したからであろう。堂々と改憲を訴え、参院選に勝利し、秋に改憲臨時国会を召集して、改憲要件緩和のための憲法改正案を成立させる。ここにすべてを収れんさせてゆく姿勢だ。この結果連休明けの国会は、国民も巻き込んで、改憲論議が新たなステージに到達することになる。爽やかな連休であったが、一つだけ新聞報道で不愉快千万の記事に遭遇した。朝日の改憲に関する世論調査の報道だ。毎日も追随したが、その内容は改憲支持の回答が多数であるにもかかわらず、これには見出しで触れず、安倍が目指している改憲要件を衆参両院議員の3分の2の賛成から2分の1に緩和する96条改正についての回答をトップ見出しに掲げたことだ。内容は96条改正に「反対54%、賛成38% 」(朝日)、「反対46%、賛成42%」(毎日)というものだ。これを見た読者はまだ改憲反対が賛成を上回ると受け取るだろう。これは明らかに世論誘導を意図したものである。
なぜなら肝心の改憲への賛否は、朝日が「賛成54%、反対37%」、毎日が「賛成60%、反対32%」で、いずれも改憲派が大きく上回っているのだ。これを朝日にいたっては、何と文末にひとこと触れただけである。改憲の論議はそれぞれ一理あって、最後は超高度な政治判断に委ねられるべきものであり、論議の高まりは民主主義国家の言論の自由とも相まって大いに歓迎すべきところだ。しかし、天下の朝日ともあろうものが、姑息(こそく)な情報操作と世論誘導をしてはいけない。憲法論議はフェアプレーでいくべきではないか。もっとも世論操作は、改憲派が追い込まれている証拠でもあろう。現にNHKの調査は、金をかけているだけあってかなり正確だが、96条改正には賛成が26%で、反対の24%を上回っている。だいいち国民は、緩和策などは知らないのだ。同調査でも45%が知らないと回答している。まだ周知が行き届いていないのだ。総じて大手マスコミの改憲調査は、前述の朝日、毎日に加えて、NHKが「42%賛成、反対16%」、読売が「賛成51%」と、勝負は改憲派に上がっている。安倍は一部マスコミの誘導策に惑わされるべきではない。
振り返れば、自民党は立党以来綱領に改憲を掲げてはいたが、歴代首相とも本気で取り組もうとはしてこなかった。それどころではない政局処理や、政策課題を最優先せざるを得なかったからだ。改憲綱領はいわば床の間の天井のようなもので、誰も顧みなかったのだ。それを安倍が「参院選挙では堂々と96条改訂を掲げて戦う」と宣言した背景はどこにあるのだろうか。まず安倍は確信犯的に改憲論者であり、これに政治生命をかける“根性”が出来上がっている。この安倍の確信を一層高めているのは、中国、韓国、ロシアなどの主権侵害と北朝鮮の核恫喝である。9条をそのままにして解釈で自衛権を行使できるという“解釈改憲論”が現実の極東情勢に全くそぐわなくなっているのだ。安倍は著書で「我が国の安全保障と憲法の乖離(かいり)を解釈で示すには限界がある」と、最終的には9条改正が到達点であることを明らかにしている。加えて、国内政治情勢を見れば、自民党の総選挙圧勝で「1強全弱」の様相が強まっている。とりわけ衆院においては、改憲至上主義の維新と組むだけで軽く3分の2をクリアできる。安倍がこの情勢を見逃すことはないと考えてもおかしくない。参院選では自民党は60議席程度は確保出来そうであり、公明と合わせて242議席の過半数は獲得できる可能性がある。問題は3分の2である161議席に改憲派が達するかどうかだ。みんなの党と維新を加えても微妙な状況ではある。しかし民主党が割れればクリア可能となる。自民党幹部筋は「安倍さんは、与党が過半数に達すれば、突っ込む」と漏らす。その原動力はやはり衆院にあるというのだ。同筋は「衆院で圧倒的な多数で憲法改正発議という超重要議案が可決された場合、参院には大変な圧力がかかる」と述べる。
要するに、参院の共産などを除く野党は、議員個人個人の判断に縛りをかけにくくなるというのだ。もちろん衆院においても同様の事態が、とりわけ民主党に生じ得る。民主党は衆院で割れれば参院でも割れるが、衆院で割れない場合でも参院で割れる可能性があるというのだ。これは安倍が維新との改憲共同歩調で、衆院の3分の2議席という決定的なイニシアチブを握っていることになる。公明党が例によって創価学会婦人部の「絶対平和主義」などに踊らされて、どう出るかだが、入り口の96条までは認めるべきだという妥協論も党内では生じている。政権の蜜の味からは離れがたい政党となってしまっており、必ずしも棒を飲んだような姿勢ではあるまい。このような情勢から、政権与党で過半数を参院選で達成、ねじれを解消した場合には、安倍は改憲に動くという見方が強い。自民党内では「3か月の長期臨時国会」がささやかれている。これまで開店休業状態だった衆院の憲法審査会が5月9日、4年ぶりに開かれ、96条改正を軸に改憲論議の口火が切られる。
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