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2013-05-07 00:00
東アジア安保危機に迅速な対応を求める
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三内閣と米オバマ第二期政権の発足に伴う日米同盟関係の再調整が第一段階を終えた。民主党政権でぐらついた関係の立て直しである。2月の日米首脳会談を受けた4月29日の日米防衛相会談(ワシントン)は東アジア安全保障情勢の急迫に対応するものとなった。ポイントは米国の核の傘を中心とする拡大抑止の再確認、尖閣諸島に対する日米安全保障条約の適用の対中通告、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定着手である。日米同盟は外交的には日本の環太平洋連携協定(TPP)参加決定で日米が主軸となるアジア太平洋地域の自由経済体制作りが進み出した。安全保障戦略として安倍政権が特に迅速に進めるべきは、海上保安庁の警備態勢強化、集団的自衛権行使の容認、自衛隊の領海警備の法的措置など国土、領海防衛のための具体的措置である。
小野寺五典防衛相との会談でヘーゲル米国防長官は北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対して拡大抑止を含む日本防衛への確固たる決意を表明した。第一次安倍内閣の2007年、日米首脳(安倍・ブッシュ)会談を受けた日米安全保障協議委員会(2+2)の合意文書は「米国の拡大抑止が日本の防衛及び地域の安全保障を与える。あらゆる種類の米国の軍事力(核、非核を含む)が拡大抑止の中核を形成し、日本の防衛に対する米国のコミットメントを裏付ける」ことを再確認している。ヘーゲル長官の意思表明は北朝鮮へのけん制だけではない。核・ミサイル戦力を充実させている中国へのメッセージでもある。中国は2012年の国防白書で核兵器の「先制不使用」の記述が初めて削除されたと伝えられる。中国は尖閣諸島への領空侵犯やしつこい領海侵入を繰り返し、護衛艦への射撃管制レーダーの照射など軍事衝突に発展しかねない危険な状況を作り出している。日本が呼び掛けている衝突回避のための「海上連絡メカニズム」構築のための協議再開にも応じていない。
ヘーゲル国防長官は尖閣諸島が「日米安保条約第5条の適用下にあり、日本の施政権を損ねる一方的で力によるいかなる行動にも反対する」と明言した。長官によれば、米軍トップのデンプシー統合参謀本部議長が4月訪中の際、この旨を中国側に伝えた。同議長は4月26日NHKとのインタビューで、中国で会ったほとんどの指導者が尖閣諸島を「核心的利益」と述べたことを明らかにした。これを受けて中国外務省の報道官は即日、尖閣を「中国の領土主権にかかわる核心的利益」と公式に認めた。中国は「核心的利益」を武力を行使してでも守る国家主権の問題として台湾、チベット、新疆ウイグル両自治区などについて使ってきた。最近ではベトナムやフィリピンなどとの領海紛争の舞台である南シナ海についても言及しているが、ついに東シナ海にまで拡大した。中国政府はその後、報道官発言を間接的な表現に修正したが、真意は不明である。
中国が偽装漁民の上陸などでじわじわと尖閣諸島の日本の実効支配を崩せば、米国も手が出せず、太平洋への自由な出口を確保できる。ロシアがソ連時代からオホーツク海を内海化し、北方領土を占領し続けているのも、太平洋への出口を維持するためだ。中国が対米戦略の柱に掲げるアクセス拒否/エリア拒否(A2/AD)を進めるのも、台湾攻略のためであり、台湾の目と鼻の先にある尖閣諸島の価値は高い。「尖閣」はアジア太平洋における米中軍事バランスにも影響する戦略問題である。中国が「核心的利益」と宣言したことで沖縄の軍事戦略的重要性は一層強まった。「指針」の改定についてヘーゲル長官は東シナ海、南シナ海を通る海上交通路(シーレーン)の確保が「最大の焦点」と明言した。防衛協力を深めるため「情報収集、警戒監視、偵察(ISR)」の作業部会も設置された。小野寺防衛相は「指針」の見直しに「数年かかる」と述べたが、日本を取り巻く戦略環境はそれほどの時間的余裕を与えてくれないのである。政府は緊急の課題として対応を急がねばならない。
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