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2013-05-20 00:00
イスラエルによるシリア空爆
水口 章
敬愛大学国際学部教授
5月4日、ロイター通信、AP通信は、5月2日深夜から複数回にわたり、イスラエル軍がシリアのダマスカス近郊に空爆を行ったと報じた(国営シリア・アラブ通信はジャムラヤの科学研究センターが攻撃されたと報じている)。空爆はレバノン上空を通過して実施された。攻撃の目的は、シリアの大量破壊兵器など高度な武器がレバノンのシーア派のヒズボラ勢力にわたることを阻止することだったと伝えられている。この件について、イスラエルの軍報道官は、「この種の報道にはコメントしない」と述べている。しかし、ロイター通信は、イスラエルのネタニヤフ首相が、同攻撃を木曜日夜の安全保障閣僚会議で決定したと報じている。また、AFPはレバノン外交筋の話として、今回の作戦は、最近ロシアからシリアに運び込まれた地対空ミサイルが攻撃の対象になったと報じている(標的は、ヒズボラ向けのイランのファテフ110地対地ミサイルだったとの報道も流れている)。
仮に、イスラエルが今回の作戦を実施したとすると、今年1月に続き2回目のシリア領内への空爆となる。中東地域の報道では、シリア内戦での死者がすでに7万人以上に達しており、イスラエルによると見られる今回の軍事行動が、レバノンでの内部対立の激化や、シリア・イスラエル間の軍事衝突へと事態を悪化させることを懸念する一部の市民の声が伝えられている。レバノンでは、すでに2012年2月、トリポリでアサド支持者のアラウィ派とスンニー派の間で銃撃戦が起きている。また、この5月2日には、ヒズボラの最高指導者ナスラッラー師が、米国やイスラエルがアサド政権転覆を図った場合、これを阻止するために介入すると警告を出している。このヒズボラはシリア国境地域において、すでにシリアの反政府勢力と交戦しているとの報道もあり、レバノン―シリア―イラク―イランというシーア派三日月地帯を固めるために動いている。
今後のシナリオについてであるが、シリアの外務副大臣が「報復」に言及しているが、イスラエルの攻撃であることが実証できない限り、シリア側は「自衛権の行使」としての武力行動はとれないだろう。したがって、過去の事例に鑑みれば(1)イスラエル国内でのテロ、(2)南レバノンでのイスラエル軍とヒズボラの軍事衝突、(3)ゴラン高原からのイスラエル領への攻撃が考えられる。アサド政権がこれを超えて対イスラエル軍事行動を選択する蓋然性は低いと考えられる。
ただし、米国のオバマ政権は、シリア政府軍の化学兵器使用問題で地上部隊を派遣しないとしながらも、「レッドライン」を超えたことを確認すれば、国連やNATO軍などを使い、シリアに対する圧力を高めざるを得なくなるだろう。そうなると、アサド大統領が強硬な対応策を選択する蓋然性は高くなることは確かだ。国際社会のシリア内戦への対応が遅れている結果、難民の大量流出問題をはじめシリア周辺国への悪影響が拡大している。今後の注目点は、米国のケリー国務長官のロシア訪問、ネタニヤフ首相の中国訪問、そして米国の新型特殊貫通弾(バンカーバスター)開発の公表を受けたイランがシリア支援をどう変化させるか、である。
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