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2013-05-23 00:00
(連載)外務省は「暗黙の了解」の存在を認めているに等しい(2)
桜井 宏之
軍事問題研究会代表
1978年4月の事件を奇貨として、我が国は日中平和友好条約の交渉の中で尖閣諸島の領有権問題を取り上げるチャンスがあったはずですが、外務省は触れようとしなかった模様です。『擬問擬答集』を読めば、領有権問題に言及しなければ国内から批判が出ることを承知の上で、外務省が敢えて中国側に質さなかったことがうかがえます。『擬問擬答集』には、この事件に関して「尖閣諸島がわが国固有の領土であることは、歴史的にも国際法上も疑いのないところであり、現に、わが国はこれを実効的に支配している。従つて中国との間に尖閣諸島の領有権をめぐつて解決すべき問題はそもそも存在していない。しかしながら、同諸島をめぐり本年4月に発生した如き事件(上述した1978年4月の事件)が起ることは不都合であるので、先般の条約交渉に際し、園田大臣より中国側に対し申入れを行つたところ、中国政府として事件を起す考えは全くない旨明確な表明があつたので、これでもはや不都合はないものと考えている」と書かれています。
この記述から推測すると、園田大臣は中国側に対する申し入れの中で、尖閣諸島が我が国固有の領土であることを根拠として事件の再発防止を申し入れたわけではないことがうかがわれます。なお棚上げ論に関しては、1978年10月に日中平和友好条約の批准書交換のために来日した中国の鄧小平副総理(当時)が、日本記者クラブでの記者会見で、「国交正常化の際、双方はこれに触れないと約束した。今回、平和友好条約交渉の際も同じくこの問題に触れないことで一致した。こういう問題は一時棚上げしても構わないと思う。我々の世代の人間は知恵が足りない。次の世代は我々よりももっと知恵があろう。その時はみんなが受け入れられるいい解決を見いだせるだろう」(注1)という発言が知られています。
しかし日本政府は、この鄧発言で触れられた尖閣問題棚上げの約束の存在は明確に否定しています(注2)。従って建前上、尖閣諸島の領有権問題について日中間にはいかなる合意も存在しません。「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか」であるゆえに、これまで領有権を主張しなかったという外務省の言い分は、「権利があるから敢えて主張しなかった」と言うに等しく、先に引用した法格言に従えば「保護に値せず」と見なされるでしょう。それにも関わらず外務省がこれまで領有権を主張しなかった事実に対して、国際社会は、本来存在しないはずの日中間の棚上げに関する「暗黙の了解」の存在を見出すのではないでしょうか。(おわり)
(注1)「尖閣諸島をめぐる問題~日本の領土編入から今日までの経緯」(参議院常任委員会調査室・特別調査室2010年12月1日『立法と調査』第311号、24頁)
(注2)「衆議院議員河井克行君提出『1978年10月25日の鄧小平・中華人民共和国副総理の日本記者クラブ内外記者会見での尖閣諸島に係わる発言に関する質問』に対する答弁書」(内閣衆質176第69号、2010年10月26日)
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