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2006-12-04 00:00
正しい日本語のすすめ
大藏雄之助
評論家
生命の尊さがテーマのシンポジウムで、パネリストの一人が「人間は毎日動物や植物の命をもらっているから『いただきます』と言って感謝する」と発言したのに、飛びあがるほど驚いた。その後、何人かの子供に尋ねたところ、「学校でそう教えられた」と聞いて呆れ果てた。それでは辻斬りが「お命頂戴!」とことわるのと同じだ。「いただく」というのは「食べる」「飲む」の謙譲表現で、「召し上がる」という尊敬語と対になっている。「いただきます」は感謝の気持ちを含んでいるが、それは汗水たらして食材を用意してくれたお百姓さんや外で働いてお金を稼いで来てくれる父親や食事を作ってくれた母親が対象だった。それをまことしやかに生物と結びつけるのは、まさに牽強付会で不興不快きわまりない。
先日「讀賣新聞」に経営コンサルタントの女性が、「ご返事とお返事は、下が漢音の時は『ご』、訓読みの場合は『お』というのが決まりだから、『ご返事』が正しい」と書いていた。私は新聞の編集者にそれが間違っていることを指摘したが、今日まで訂正記事は出ていない。漢字の熟語や名称は、日常的に使い慣れると、和語の扱いになる。お菓子、お稽古、お歳暮、お大事になどというとき、漢字を意識していない。したがって、手紙や返事につくのは「お」であり、書簡・返書ならば「ご」になる。身の回りでは多分「お」のつくものの方が多い。
同じような例でアナウンサーもよく間違える大地震がある。これは「オオジシン」であって、「ダイジシン」ではない。これに対して、震災は「ダイ」である。「オオ火事」と「ダイ火災」も同様。地震、火事、喧嘩はそれに相当する現代の大和言葉はない。類似のものは大騒動、大舞台、大太鼓、大御所、大番頭など、いくらでもある。手榴弾をシュリュウダンと読むのは誤り。もともと榴弾砲があり、それに似た弾丸を手で投げるようにしたので、テ榴弾と呼んだ。決して重箱読みではないのである。
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