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2013-06-03 00:00
転換点迎えたインド洋外交
鍋嶋 敬三
評論家
日本の首相として36年ぶりという安部晋三首相のミャンマー訪問(5月24日~26日)とインドのシン首相訪日(同27日~30日)は中東からアフリカへつながるインド洋外交の転換点を意味する。中国をにらんだ地政学的な観点からも戦略的意義は大きく、アジア太平洋、インド洋地域の国際関係に影響を及ぼすことは間違いない。これに対して「中国包囲網」を警戒する中国は硬軟合わせた外交攻勢を強めるだろう。日本は国際ルールに則った互恵協力の原則で地域の国々との協力関係の強化を着々と深めるのが外交の王道である。ミャンマーのテイン・セイン大統領は安倍首相を迎える4日前にホワイトハウスでオバマ米大統領と会談したばかりだ。2012年にアメリカ大統領として初めて同国を訪問したオバマ氏は軍事政権から徐々に民主化を進めてきたテイン・セイン政権を高く評価、長年の経済制裁を緩和した。オバマ大統領は首脳会談で「正しい道を歩むミャンマーを助けるためあらゆる努力をする」と力を込めて宣言した。
「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーに対して安倍首相は5000億円の対日債務の免除、政府開発援助(ODA)としてインフラ整備のための910億円の円借款を供与、「新しい国造りに官民総動員での応援」を約束した。同国は軍事政権下の人権弾圧のため欧米から厳しい経済制裁を受けた結果、中国への依存度が著しく高まった。ミャンマーへの支援は中国の勢力圏にのみ込まれるのを防ぐ意味もある。同国にとっても中国との関係を維持しつつ、日本や米国との関係を深めることは外交戦略の大転換である。ミャンマーは2014年には東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のいすが回ってくる。日本としては、ASEANと中国の間で南シナ海の領海紛争解決のため、拘束力のある行動規範作りに議長国としての役割を期待したいところだ。ミャンマーの急速な台頭は地域に影響を与えている。タイの英字紙「ネーション」に5月下旬、「しおれるタイ、昇るミャンマー」と題する著名なジャーナリストの記事が載った。タイはかつては米国や日本から東南アジア外交政策の中心とみなされたが、それも過去のことになったと指摘し、今や「ほほえみの国」はミャンマーに取って代わられつつあり、ASEANの中心(ハブ)としての役割も果たせなくなると警鐘を鳴らした。
ミャンマーに隣接するインドは長年、カシミール地方での領土紛争を中国との間で抱え対中警戒感が強いが、経済、軍事力では中国に圧倒されている。シン首相の来日は中国の李克強首相の訪印直後のタイミングになった。日本とインドの間で原子力協力協定の交渉加速、産業大動脈構想、高速鉄道の建設など政治、安全保障、経済面での協力を推進する「戦略的グローバル・パートナーシップの強化」をうたった共同声明を発表した。日本政府は首脳会談の成果を「中東から東アジアへのシーレーン(海上交通路)に位置するインドはわが国にとり戦略的に重要な存在。日印関係は新たな段階に歩みを進めた」(外務省)と高く評価した。
しかし中国の反発は激しい。インドのPTI通信によると、中国共産党系の新聞はインドやミャンマーとの首脳会談について、日本が試みる中国包囲という「希望的観測は幻想に過ぎない」と批判した。中国のいら立ちを示すものだろう。インド首相の訪日と同時期に訪中したスリランカのラージャパクサ大統領に対して中国は港湾、鉄道建設などインフラ整備に22億ドル(2200億円)の借款を供与、軍事協力の強化で合意した。ミャンマーを足場にインド洋への出口を確保したい中国はスリランカ、パキスタンなどとの協力を深め「インド包囲網」を着々と進めている。インド洋を巡る地域大国のせめぎ合いは激しさを増すばかりである。
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