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2013-06-18 00:00
安倍、「改憲」で民主分断・再編を意図
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三がポーランドのワルシャワから改憲に向けての変化球を政界に投げ込んできた。その内容は2つの構想から成り立つ。一つは96条の発議要件をすべて2分の1にせず、部分的に3分の2を残すべきだとする公明党への配慮。他の一つは民主党分断への牽制の側面が濃厚だ。背景には改憲を標榜する勢力は、衆院では3分の2を確保しているものの、参院選予測では維新の失速などで確保困難との見通しが確実視されるに至ったことがある。発言は首相自ら選挙後は改憲を軸に「民主党分断・再編」への動きを加速させる意志表示をしたことになり、同党内に警戒感が走っている。 安倍発言はまず参院選挙について「自民・公明両党で過半数を目指す」と述べて過半数の122議席以上確保への自信を示した。次いで憲法改正案の発議要件を過半数に引き下げる憲法96条改正について「平和主義、基本的人権、国民主権の3原則は現行の3分の2以上に据え置くことも含めて議論していく」と述べた。これは公明党内に同3原則は3分2を堅持すべきだとの意見が強まっていることに配慮したものだ。その他の統治機構などに関する条文の改正要件を2分の1にすることにより、公明党に「96条改憲」に参加しやすくしようという狙いがある。
一方で安倍は改憲での政界再編に踏み込んだ。自民、維新、みんな、新党改革など改憲勢力の3分の2確保については、「1回の選挙で取るのは不可能だ。選挙を終えた上で3分の2の多数派を得るよう努力する。日本維新の会とみんなの党だけでなく、民主党にも条文によっては賛成する人がいる」と発言した。これは選挙後民主党内の改憲派を糾合して3分の2を確保することを意味しており、まさに民主党分断に直結する。民主党内は社会党左派から自民党離党組までが混在しており、改憲派も護憲派もそれぞれが独自の主張をしている。民主党代表・海江田万里ではとても方向を打ち出すことはできない状態だ。執行部は参院選を前にして、自民党との違いを鮮明化するため改憲論を封ずる流れとなっている。
しかし、民主党幹事長・細野豪志は「民主党は護憲勢力にはならない」と明言しているし、元代表・前原誠司もばりばりの9条改憲論だ。党憲法調査会の副会長・長島昭久に至っては「党内でも憲法の中身の議論を早くやりたい。議論をしたうえで、どうしようもなければ党議拘束を外し、政治家の良心に従って発議の投票をするのも一つのアイデアだ」と改憲での党議拘束解除を主張している。筆者が6月11日の記事で指摘したように、生活代表の小沢一郎はこうした状況を分析して「参院選挙後民主党は改憲派と護憲派に分裂するかも知れない」と漏らしている。小沢の思惑は、参院選後にあわよくば民主党を分断して、改憲派は自民党との合流に追いやり、護憲派を率いてリーダーになるところにある。
安倍の発言は、こうした民主党内情勢にさらなるくさびを打ち込むものである。これに対して海江田は「放っておいて」と女性が泣きべそをかくような反応をした。「お互い、政策などについては当然議論をするが、政党の中のことについて、あれやこれやいうことはフェアでない。よけいなことを言わずに放っておいてもらいたい」と述べたのだ。しかし海江田が代表になってからも離党者は続出しており、なかなか外れかかったたがが締まらないのが実情だ。冒頭述べたように、安倍の発言の背景には参院選挙情勢がある。維新共同代表・橋下徹の慰安婦失言でブームは完全に去り、当初は当選20議席説すらあったが、現段階では一ケタ台へと転落が確実視されるに至っている。最低の場合には、5議席以下との分析も可能だ。自公で122の過半数を制し、ねじれは解消される可能性が極めて強いが、改憲勢力ではとても3分の2の162議席達成は困難だ。これに公明党が加わって辛うじて可能になるかもしれないという情勢だ。それも維新の議席を民主党が奪う可能性が強く、民主党の議席数によっては改憲要件をクリヤできないことになり得る。従って安倍が参院選後に改憲へと動くなら、民主党改憲派の取り込みは不可欠かもしれない。民主党の参院の改憲派は、非改選と当選予想の議員の中に14,5人はいると見られており、これを分断できるかどうかが鍵となる。
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