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2013-07-11 00:00
(連載)エジプトの政治動乱(2)
水口 章
敬愛大学国際学部教授
では、なぜ今だったのか。モルシ大統領の統治のあり方を問題視することは、「選挙で多数をとったからといって少数の声を無視して政策を一方的に実施してよいのか」という民主主義の根本的な問いかけをすることだろう。この問いかけは、先のトルコのエルドアン政権に対する市民の抗議行動でも見られた(現在も継続している)。それでも、なぜモルシ政権の就任から1年となるこの時期に軍が動いたかの疑問は残る(大統領の任期は4年)。歴史的に、軍はムスリム同胞団と対立関係にあり、必ずしも中立的ではなく、現状、タマッルドの立場に近いと言える。今回の一連の動きの中で、軍は、タマッルドの要求をモルシ大統領に伝え、改善を迫っている。これに対し、モルシ大統領は、失策を続けているガンディール首相の解任を拒否し続けた。その一方、タマッルドよりであったヌール党などのイスラム急進派を再び味方につける目的で検事総長を新首相とする組閣を行い、批判の方向を変えようとした。
6月25日、こうした動きに対し、タマッルドはモルシ大統領宛に「最後の警告」と銘打った文書を送っている。同文書の中で、「失策の最大の責任者であるあなたが、失政批判にさらされた内閣の改造について語るなど言語道断」と強く批判、大統領の退陣を強く迫った。それというのも、モルシ大統領が試みようとした組閣は、国民融和を図る方向ではなく、ムスリム同胞団を強めるものであったからだ。当時、サウジアラビアを訪問中のケリー米国務長官は、内閣改造がきっかけで事態が打開できることを希望すると述べている(6月26日付アル・ハヤート)。この発言は、米国がエジプト情勢を把握しており、モルシ大統領に国民融和を行うよう圧力をかけたものとも考えられる。
ムスリム同胞団は、対話の扉を閉ざし、モルシ大統領の復権を求めてタマッルドの存在を否定するかのように「軍事クーデタ」であることを主張し「シシ国防相に権力を渡さない」として、支持者に動員をかけている。これにより事態は、治安部隊(内務省主管)対ムスリム同胞団支持者の武力衝突へとエスカレートしつつある。一方、シシ国防相は、モルシ大統領の解任をテレビで放映して以来、表舞台での活動はみられていない。今後の注目点は、短期的には(1)現在行われている組閣が、どれだけ広い範囲の政治勢力を組み込めるか、(2)ムスリム同胞団の支持者の暴力行為がどれだけエスカレートするか、(3)アルカイダの指導者ザワヒリの発言に促された外国人テロリストの活動がエジプト国内でどの程度起きるかである。
かつて、エジプト国内でイスラム過激派のテロが続発し、観光客が激減した(日本人観光客も犠牲になった)。これに対し、市民はイスラム過激派に対する怒りをあらわにし、ザワヒリをエジプト国外に追い出すまでとなった。今回、ムスリム同胞団を支持する市民の抗議がエスカレートすれば、観光客の減少は続き、エジプトの経済的打撃はかなり大きなものとなるだろう。それは、サウジアラビアやカタールの経済支援では補いきれないものとなる可能性がある。ムスリム同胞団側からは、「平和的抵抗」を続けるとの発言も出ている。ムスリム同胞団は自らの統治と権力への欲望を抑え、エジプトのすべての市民のためという見地に立てるかが、今後の動向のカギとなる。(おわり)
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