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2006-12-08 00:00
日本核武装論者よ、もっと説得力ある論理を展開せよ
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
核武装論者に疑問を呈した11月27日付けの私の投稿に対しては、片言隻句をあげつらう反論以外、まともな反論が出て来ていない。以下、再度みずからの立場を明示した上で疑問を呈する。
(1)私も「非核三原則」など、吹けば飛ぶような「国是」であると認識している。これは政府の方針であり、(その後の)国会決議にすぎず、「法」ではない。たとえ国内法として制定されていても、改正すればそれまでのことだ。平和利用を謳った「原子力基本法」「原子炉等規正法」などは改正すればよいだけの話である。
(2)しかしNPT(核不拡散条約)はそうはいかない。日本が脱退すれば、東アジアの核ドミノにとどまらず、世界的規模の核拡散を誘発する。米国が容認する筈がないが、もし容認すればNPT脱退国が続出し、NPT体制は完全に崩壊するであろう。世界的規模の核拡散に日本は責任を負えるのか。「日本は北朝鮮の脅威に対抗しているだけだ。他国のことにまで関知できない」で済むと思うのか。イランは事あるごとに「日本に(ウラン濃縮などの)平和利用が認められて、なぜイランにはダメなのか」と開き直っているが、日本が核武装すればイランの核開発を阻止する理由は完全に消滅し、他の中東諸国もいっせいに核開発に走るであろう。核廃棄に応じたリビアの再開発も阻止できなくなる。南米にも反米左派政権が続々と誕生しており、すでに(過去に経験があり)核開発能力のあるブラジル、アルゼンチンはじめ、ベネズエラのチャベス政権なども北朝鮮の支援で核開発に走るのは必至である。
(3)「NPTが不平等条約だから脱退してもよい」というのは無知で幼稚な議論だ。NPT成立の歴史的背景をきちんと勉強していただきたい。第二次大戦後、米国に続いて(旧)ソ連、英国、フランス、中国が相次いで核実験して核保有国となり、1963年、生前のジョン・F・ケネディは「1975年までに日独を含む15-20カ国が核保有国になるだろう」と予言した。そこで、核保有国をこれ以上増やすまいと各国が合意したのがNPTである。1968年署名。非核保有国もこぞって賛成して1970年に発効した。このとき、NPTに盛り込まれたのが、原子力平和利用の権利の保証(第4条)と核保有国の核軍縮努力(第6条)だ。米ソ冷戦下における国際社会の総意としての精一杯の妥協だったのだ。差別性・不平等性を批判するのは結構だが、この時代に核保有国が一斉に核廃絶に応じたであろうか。あるいは事態を放置してケネディの予言どおり、あるいはそれ以上の規模の核拡散を黙認すべきだったろうか。日本は、核クラブ入りして不平等を拡大する側にまわるのか、それとも核廃絶(せめて核軍縮)実現に努力する側に留まるのかの選択を迫られているのだ。
(4)「日本は国際条約で拘束されているから核武装できないのではなく、「狭い国土、人口・産業の集中のゆえに不可能」というのも無知で幼稚な議論だ。それならイスラエルの核武装をどう説明するのか。台湾も核開発能力(nuclear capability)保有国で、一時は真剣に核開発に従事していた。スイスも核開発を試みたことがある。日本の国土は決して狭くはない。80%は山岳地帯だ。離島も多く、核実験場確保は不可能ではない。
(5)以上のとおり、私は核武装論議に倫理・道徳を一切持ち込んでいない。広島・長崎の被爆体験は風化する。核論議は善悪を基準にするものではない。核廃絶は理想だが、おそらくあと100年は不可能だろう。なぜなら、その間、脱原発が不可能だからだ。日本語では「核」と「原子力」を峻別しているが、両者は本来同一のものであり、コインの裏・表だ。一向に反論がないが、日本の原子力発電をどうするのか。豪州・カナダからのウラン鉱も、米国、EU(欧州共同体)関係国に委託しているウラン濃縮、プルトニウム再処理も、すべて二国間協定にもとづいて「平和利用」を前提に供給してもらっているのだ。核開発に着手した瞬間から協定は破棄される。電力需要の31%(2005年実績)を依存している原子力発電がすべて停止してもいいのか。そもそも核弾頭用のウラン・プルトニウム確保をどうするつもりなのか。
以上、議論を尽くしていないが、「百花斉放」の制約上この辺で切り上げる。詳しくは最新刊の吉田康彦著『北朝鮮核実験に続くもの』(第三書館刊)をご参照いただきたい。あるいは雑誌『世界』(岩波書店)1月号の小論(P.51-57)をお読みいただきたい。
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