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2013-07-18 00:00
選挙後は「改憲」より経済重視路線が賢明
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三がついに「9条改憲」を明言したが、参院選挙後改憲が喫緊(きっきん)かつ最大の課題となるかというと疑問である。なぜなら現下の選挙情勢では自民・維新・みんなの改憲勢力で改憲に必要な参院議席3分の2を確保することは不可能となったからだ。改憲のためには公明党か民主党の改憲派を取り込むしかないが、公明は説得に時間がかかる。民主党改憲派を取り込めば話は早いが、流動的な要素が多すぎる。いきおい水面下での多数派工作となり、容易に浮上はしまい。加えて、秋には消費増税の最終決断を始め、近隣諸国との関係改善、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の詰めなど超重要課題がひしめいており、流動性の高い改憲問題に専念出来る余裕は少ない。国民の期待も景気回復にある。従って安倍は当面、経済最重視路線を選択せざるを得ないし、そうすべきである。安倍の改憲戦略は、実は橋下の慰安婦発言が狂わせたのだ。安倍が政権発足前後から改憲に意欲を示したのは、衆院と同様に参院でも自民と維新で改憲勢力を達成できると読んでいたからだ。維新が躍進を続け、参院での改憲勢力で3分の2の162議席を確保出来るという判断があった。しかし国政政治家にはほど遠い大阪のあんちゃんの発言は、維新の躍進ムードに冷水をかけ、とても改選議員だけで改憲に必要な101議席を確保出来る情勢ではなくなった。筆者の分析では自民党が69前後、維新7前後、みんな8前後であり、101議席にはほど遠いのだ。周辺によると、安倍は慰安婦発言前までは、維新が20議席はいくと踏んでいたようだ。安倍はその改憲戦略を根本から見直す必要に迫られることになった。
一見すれば、安倍は改憲への強気の姿勢を維持しているように見える。7月15日遊説先で「われわれは9条を改正し、その(自衛隊の)存在と役割を明記していく。これがむしろ正しい姿だろう」と、選挙戦に突入して以来初めて、「9条改憲」に言及した。これまで安倍は憲法改正の発議要件を緩和する96条改正には意欲を示してきたが、改憲の核心に言及したのだ。改憲勢力が足りないことは分かっているのに、なぜ強気なのだろうか。発言の狙いは改憲の旗を掲げ続ける意志表示であろう。いま断念しては、成るものもならない。安倍は「改憲する者この指とまれ」と表明しているのだ。その証拠に民主党分断を意図した発言を繰り返している。「民主党にも条文によっては賛成する人がいる」と述べたかと思うと、 「政治は志(こころざし)だから、民主党の議員も党派ではなく、この歴史的な大事に自分の信念、理念に沿って参加してもらいたい。党の枠組みを超えて呼び掛けたい」とまで言い切った。呼びかけるということは民主党分断に他ならない。酢だのこんにゃくだのを繰り返す公明党にもけん制となる。
そこで改憲の焦点は、改憲勢力プラス民主党改憲勢力か、公明党か、という図式になる。選挙情勢から見ると民主党は20議席を割り込み17議席前後とみられる。しかし非改選議席の貯金が42議席あるから、それでも参院で60議席近くの議席は確保出来そうである。この中で改憲派が何人いるかだが、それぞれ主張に硬軟はあるが、20議席はいるものとみられている。民主党の改憲派が離党するか、執行部が離党を恐れて党議拘束を外せば、話は手っ取り早い。自民、維新、みんなで150議席弱はあるから、民主の20議席で改憲の162議席はクリアできることになる。しかしこの捕らぬタヌキの皮算用がうまくいくかどうかは、自民党の分断工作の成否にかかっている。一方で、公明党は、話の持って行きようが取り込めるかどうかを決める。問題は、創価学会の絶対平和主義が代表・山口那津男にブレーキをかけていることである。調整は簡単ではない。同党は「加憲」なる改憲にかたむいているが、山口は9条に第3項を加えて自衛隊の存在を明記するなどと述べている。現行憲法の抱える矛盾を9条に書き加えるような支離滅裂な構想であり、自民党の改憲案とは天と地ほどの違いがある。話し合いに入ったとしても調整には手間取り、いつのことになるかは判然としない。
話が付けば、公明党の20議席プラスでやはり162議席はクリアできる。安倍が唱えている、改憲の条件を96条の3分の2から過半数に変える構想も、公明は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の憲法3原則を3分の2にすれば、後は柔軟に対処する姿勢を示している。安倍はこれに乗ることもやぶさかでない考えだ。しかし公明の酢だのこんにゃくだのに対処して一定の方向を打ち出すのは容易ではないし、早くて1年、2年はかかるだろう。要するに、民主分断は不透明、公明説得は時間がかかるというのが実情だ。一方で経済界は、改憲など望んでいない。日経によると各社調査で改憲勢力が3分の2に届かぬという報道をはやして株価が上昇している。背景には安倍が改憲でなく景気に全力を傾注せざるを得ないという“読み”がある。株屋の肩を持つつもりはないが、アベノミクスはこれからが正念場だ。これに水をかける消費増税の判断も秋には強いられる。安倍政権は参院での3分の2確保が容易でない以上、“改憲三昧”はほどほどにして、今そこにある問題処理に専念すべきであろう。焦点の民主党分断のめどが立ってから、本格的な動きをすれば良い。
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