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2013-07-22 00:00
(連載)モルシ政権の失政とそのトルコへの影響(1)
河村 洋
外交評論家
エジプトのモハメド・モルシ大統領の失脚は民主的なイスラム主義を唱える者達にとっては大打撃である。アラブの春によって彼らは勢力を伸ばした。民主的なイスラム主義は取り立てて目新しいものではなく、すでにトルコではAKP(公正発展党)がアラブの春よりはるか以前から政権の座に就いている。しかしエジプトのクーデターによってイスラム・ポピュリズムの勢いはそがれてしまった。特にトルコのAKPが訴えるイスラム主義に基づく民主主義は大きく信頼性を損ねてしまった。両国の動向は中東でのイスラム・ポピュリズムの凋落をもたらした。私が、エジプトの反モルシ・クーデターがトルコに与える影響を検証したいと考えるのは、それが大きな理由である。そこでつぎの2点について議論したい。第一は、モルシ政権がエジプトの統治に失敗したのはなぜか?第二は、トルコやその他のイスラム民主主義を目指す国々にはどのような影響があるのか?
モルシ氏は、1952年の革命以降、ナセル、サダト、ムバラク政権と長きにわたって続いてきた警察国家に終止符を打つことに成功した。しかし、『ナショナル・ジャーナル』誌のマイケル・ハーシュ主任特派員は「イスラム主義の政権与党は、またしても近代社会の中でいかに自らの生きる道を見つけるかという単純なテストに合格できなかった。グローバル経済が急速な市場統合、市場開放、そして経済学の基本原則の徹底を求めている時代にあって、現実よりもイデオロギーを優先させてしまった」と評している。イスラム主義者は選挙を勝ち抜きながら、国家統治には失敗している。イラン国民が最も穏健なハッサン・ロウハニ師を大統領に選出したのも、シーア派神権体制が1979年以来イランの経済と国際的な立場を悪化させてしまったからである。他の過激派では、ハマスもガザ地区の統治で困難に直面している。トルコでは経済が好調であるにもかかわらず、エルドアン政権は市民の抵抗に直面している。
ムスリム同胞団は選挙に勝ったかも知れないが、政治のうえではアマチュアである。スタンフォード大学フーバー研究所のコーリー・シェイク研究員は「権威主義体制が崩壊した後の社会では、統治能力のない集団が権力を握ることが多く、そうした集団には国民的な合意を形成する経験が殆どない」と論じている。さらにカーネギー国際平和財団のネーサン・ブラウン上席研究員は7月3日付けの『ニュー・リパブリック』誌への投稿で「モルシ政権は他の政党と連携できなかった。彼らは現実への対処よりもイデオロギーに固執し、潜在的に手を組める可能性のある相手と提携する機会を失ってしまった。ムスリム同胞団は、自らが主導的な立場の政治団体よりも、自らが支配的な立場の政党になろうという間違った決断をしてしまった。その結果、モルシ政権への信頼は失われ、エジプト国民から嫌悪されるまでになった。ムスリム同胞団は国家統治の経験が不足しているにもかかわらず、選挙に勝ったというだけで、自信過剰になってしまった」と述べている。ブラウン氏が述べるイスラム主義者への教訓は、2009年に「政権交代」を果たしながら国家統治には失敗した日本の民主党に対するものとどこか類似している。
遺憾ながらモルシ政権は、民主主義の重要な要素ともいうべき協議と国民合意の形成を軽視してしまった。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン常任研究員は2月7日付けの『ニューヨーク・デイリーニュース』誌への寄稿で「モルシ氏は選挙で選ばれた独裁者になってしまった。民主主義には人権、法の支配、国民の政治参加が必要で、選挙はそうした要素の一つに過ぎない」と述べている。ルービン氏はさらにAEIの内部インタビューで「ムスリム同胞団はエジプトにとっての『はしか』だ。モルシ氏は宗教を押し付けるばかりで、エジプト国民にとって重要課題である経済の改善については何もしなかった。しかしムスリム同胞団の秘密組織はテロ行為を行なうには依然として充分な勢力を保っている」と語っている。(つづく)
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