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2013-08-01 00:00
(連載)イスラム過激派は日本人にとっても脅威である(2)
河村 洋
外交評論家
不思議なことに、ヨーロッパの騎士達とは違ってアジアの王侯は、インドでイスラム教徒に奪われたシッダルタの生誕地やその他の仏教の聖地を奪回しようとはほとんど思わなかった。これは仏教圏ではローマ・カトリック教会の教皇や東方正教会のビザンチン皇帝のように、宗教的な動機で多国籍軍を編成できるような指導者がいなかったことも一因であろう。しかし末法思想は東アジアの仏教諸国に広まり、それらの国々で仏教思想に大きな影響を与えた。
日本ではそうした影響は、宗教だけでなく政治にも及んだ。武士が台頭したのは社会的秩序の崩壊に対する不安の広がりという背景があってのことである。平清盛や源頼朝といった武門の棟梁が天皇や公家から政権を奪取した時期に、インドではイスラム戦士達が自分達の勢力を拡大していた。よって上記のような歴史的背景に鑑みて、イスラム過激派の脅威はアメリカ人とヨーロッパ人だけものだと矮小化することはあまりにも危険だと、ここで再び強調したい。ヨーロッパ人は十字軍で遠征したが、アジア人はやらなかっただけのことである。それだけのことで過激派イスラム教徒の危険性を矮小化できるものではない。
そこで今度はイスラム過激派の危険性を現代の視点から述べたい。タリバンは2001年に行なった狂信的な偶像破壊によってバーミヤンの大仏を爆破したことで悪名高い。タリバン政権の駐パキスタン大使であったアブドゥル・サラーム・ザイーフ氏は、グアンタナモで数年の拘留を終えた後、2010年にアメリカで“My Life with Taliban”と題する回顧録を出版した。彼の著書によると、日本がスリランカの仏教団体を伴った公式の代表団を派遣し、タリバンによる大仏破壊の阻止を模索していた。日本代表団は「アフガニスタン人は日本人にとって仏教文明の祖先に当たるので尊敬している」とまで発言し、タリバン側に貴重な文化遺産の保全を要請した。
これに対してザイーフ氏は「日本代表団がアフガニスタン人を文化的祖先として敬うなら、イスラム教に改宗したらどうか」と返答して、冷たくあしらった。日本人はあまりにナイーブで、狂信的イスラム教徒がアメリカ人やヨーロッパ人を嫌うほどに日本人を嫌うことはないと信じがちである。しかし、タリバンやアル・カイダのような過激派にとって、カフィールはカフィールに過ぎないのである。(つづく)
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