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2013-08-15 00:00
(連載)広島、長崎の平和宣言について思う(2)
角田 勝彦
団体役員
エネルギー政策については、松井広島市長の2013年平和宣言では「国民の暮らしと安全を最優先にした責任ある政策を早期に構築し、実行するよう求める」にとどまった。2012年「市民の暮らしと安全を守るためのエネルギー政策を一刻も早く確立してください」と政府に訴えたのと同じである。なお東日本大震災に伴う福島第1原発事故のあと、2011年の平和記念式典のあいさつで菅首相が「原発に依存しない社会」を目指す考えを表明したのに同調し、松井広島市長は平和宣言で「エネルギー政策の早急な見直し」を政府に要求していた。また田上長崎市長は8月9日「原子力にかわる再生可能エネルギーの開発を進めることが必要」とする平和宣言を読み上げ、被爆地として脱原発へ踏み出す考えを表明していた。菅首相発言は、のちに広島県の湯崎英彦知事により「式典は被爆者や核兵器廃絶について考える場。注目を集める場での発言は、支持率上昇につなげるためと疑われても仕方がなく、適切ではない」と批判された。同知事は、さらに「平和祈念よりも脱原発が注目されるのは、いかがなものか」とし、「発言が政治的利用と言われても仕方ない」と述べた。
さて日本政府への批判である。田上長崎市長は「日本政府は署名せず、世界の期待を裏切りました。人類はいかなる状況においても核兵器を使うべきではない、という文言が受け入れられないとすれば、核兵器の使用を状況によっては認めるという姿勢を日本政府は示したことになります。これは二度と、世界の誰にも被爆の経験をさせないという、被爆国としての原点に反します。インドとの原子力協定交渉の再開についても同じです。NPTに加盟せず核保有したインドへの原子力協力は、核兵器保有国をこれ以上増やさないためのルールを定めたNPTを形骸化することになります。NPTを脱退して核保有をめざす北朝鮮などの動きを正当化する口実を与え、朝鮮半島の非核化の妨げにもなります」と述べている。なお松井広島市長は「日本政府が進めているインドとの原子力協定交渉は、良好な経済関係の構築に役立つとしても、核兵器を廃絶する上では障害となりかねません」と述べた。
周知の通り、核兵器廃絶は削減を含め安全保障問題のなかでももっとも緻密で慎重な検討が行われている分野である。対人地雷やクラスター爆弾と違い国家の存亡に関係する重大事だからである。拘束力を持つ条約でも核拡散防止条約(NPT)、戦略兵器削減条約(例えば米ロの2011年のSTARTⅣ)、中距離核戦力全廃条約(1988年のINF)、核実験制限・禁止(例えば1996年署名されたが未発効の包括的核実験禁止条約《CTBT》)、その他非核兵器地帯(NWFZ)など多くの蓄積がある。松井広島市長が「2020年までの核兵器廃絶をめざし」早期実現に全力を尽くすと述べた核兵器禁止条約もその一つである(ただし、松井市長のいうような平和市長会議加盟都市、国連やNGOなどの連携で、ここ数年で実現できるものではなかろう)。さらに宣言的政策が信用できないので米ロの間ではtrust but verifyの原則のもと、数量管理の透明性を向上させることで信頼を醸成してきた。文書のみでは信ぴょう性が不足なのである。まして共同声明のような宣言の影響するところは少ない。
したがって何でも聞こえの良い文書なら署名するといった無責任な方針をとらない限り、論理的整合性が重要になる。報じられるように、日本政府が南アフリカなどの主要提案国に対し、文中の「核兵器が二度といかなる状況でも使われないことが人類生存の利益になる」との部分の修正を求めていたのは「いかなる状況でも(under any circumstances)」の3語は北朝鮮の核開発など周辺の脅威には米国の核抑止力に頼っている実情に矛盾すると解したからであろう。各国が自国の方針により特定の共同声明に参加する・しないを決定するのは当然である。今回の共同声明署名国に北東アジアの国は一か国も(非核地帯構想に熱心なモンゴルでさえも)含まれていない。(つづく)
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