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2013-09-05 00:00
海江田は野田ら「6人組」の取込みに失敗
杉浦 正章
政治評論家
蟹は甲羅に合わせて穴を掘ると言うが、民主党代表・海江田万里は9月4日、能力以上の大穴を掘ろうとして前首相・野田佳彦ら「6人衆」の取り込みに失敗した。根底には参院選大敗にもかかわらず代表を辞任しない海江田への不信がいかに根強いかを物語っている。怨念の戦いと言うより、それ以前の「海江田蔑視」が存在して、物事が動かないのだ。野田は「役職よりもプロレス」と決め込んで、4日『週刊プロレス』の表紙に登場した。野田独特の表現方法で「どっこい生きている」と“やる気”を示したのだ。とにかく海江田のやることなすこと、筋が一本かけている。幹事長に労組出身の大畠章宏を据えて、党内左派に「支えられる」態勢を作ったまではよかったが、右派の筆頭野田をはじめ、岡田克也、前原誠司、玄葉光一郎、枝野幸男、安住淳ら「6人衆」の存在が気がかりでたまらない。何とか取り込めないかと考えた。それには役職で取り込むしかないと党の最高機関として「総合政策調査会」なるものを作って、6人を起用しようとした。政策ごとにトップを決めようという構想だが、淺知恵もいいところであった。そもそも海江田の指図など受けたくもない6人衆が、「役職」だからといって蔑視の対象にしている海江田の下に嬉々として参集するわけがないのだ。
案の定野田は「税制」のトップになることを固辞し、海江田構想はガラガラと崩れた。このため名称を「総合調査会」と“格下げ”して、前原らに頼み込んで「枝野憲法」「前原行政改革」「玄葉経済・農業」などの役員人事にこぎ着けた。しかし前原らも渋々引きうけたと見えて、人事発表の両院議員総会にも欠席。だいたい前原を安全保障、玄葉を外交に持ってくるならそれなりの対外的な意味を持つところだが、この人事では本人たちもやる気を起こすわけがない。最初から全く機能しない感じの党機関も珍しい。それを分かっていないのが今度の失策だ。そこで今後の焦点になるのは「6人衆」の動向であり、野田と前原がどう動くかだ。とりわけ野田は謹慎期間が過ぎたと判断したのか、沈黙を破り始めている。『週刊プロレス』のインタビューでは、昨年11月の党首討論に関して「議員バッジを外すつもりだったから負ける気はしなかった」と述懐している。あの「定数是正やりましょうよ。そうすれば16日に解散します」発言で、安倍を圧倒した討論だ。その時点で議員辞職まで考えていたとは驚きの発言である。
自身のホームページでも、「党より天下国家だ」と消費増税に突っ走った経緯について「他に選択肢はありませんでした。ネクスト・エレクション(次の選挙)よりもネクスト・ジェネレーション(次の世代)を重んじた選択に悔いはありません」と述べた。小沢らの離党もやむを得ないという論調だ。また野田は安倍が消費税実施になかなか踏ん切りを付けないことについても、珍しく舌鋒鋭く批判している。安倍について「社会保障と税の一体改革の議論については、ずっと蚊帳(かや)の外にいました。だから、常に他人事のようで、パッション(情熱)を全く感じません」と批判。さらに「60人もの有識者のヒアリングを行い、そもそも論を聴取していること自体、奇異に映ります。要は、総理の肚一つです」と「安倍官邸」によるヒヤリングの愚を戒めている。まさに正論であり、野田にしてみれば命がけで成立させた消費増税法を、安倍が軽々しく扱うことに我慢できないところなのであろう。
警護に迷惑をかけると控えていた船橋駅前の辻立ちもちょくちょく始めた。8月1日夜開かれた野田グループの会合での野田の発言が永田町に波紋を呼んでいる。「最後の1人になっても党に残り、立て直していくつもりでいたが、このままでいいのだろうか、と思わざるを得なくなった」と述べたのだ。「つもりでいた」とは確かに意味深長な表現である。そこには海江田への求心力はなく、遠心力が強く感じられる。一方で前原も、政界再編志向が強い。維新の会の共同代表・橋下徹とは肝胆相照らす関係になってきており、定期的に会合を開いている。8月には大阪で秘密裏に橋下と会談し、政界再編に向けて連携を保つ事で一致している。こうした中で安倍は民主党に対して際どいボールを投げようとしている。改憲と集団的自衛権の行使、そしてTPP(環太平洋経済連携協定)だ。とりわけ集団的自衛権の問題が厳しい。通常国会には関連法案も提出される方向だからだ。そうなれば民主党は是認論の野田、前原らと左派との間に決定的な溝ができる。保守からリベラルまで抱える民主党の体質は何も変わっていない。国の安全保障政策への態度を明確にせざるを得ない状況が生まれるのは確実だ。海江田が「6人衆」の掌握に失敗して、今後はさらなる遠心力が働く流れとなっていくだろう。2009年の政権交代時には400人を超えた民主党議員は、現在は約3割の116人(衆院57人、参院59人)となったが、さらなる分裂再編もありうる状況である。
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