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2013-09-28 00:00
(連載)議論が深まらない「保護する責任」(2)
水口 章
敬愛大学国際学部教授
ここで、オバマ大統領が問いかけたものの1つである「人間の尊厳」について考えてみる。2011年3月のリビアへの国際介入では、この「人間の尊厳」に焦点が当てられ、国際社会は「保護する責任」を履行した。安保理決議1973号に基づく行動である。チュニジア、エジプトに続き、リビアでも民主化を求める市民抗議運動が発生したが、カダフィ政権が戦闘機や戦車を使用して自国民を弾圧した。国際社会はそのことで、人道介入の検討を始め、同国の状況を国際刑事裁判所の検察官に付託した。その後、リビア情勢は悪化し、国際社会は文民居住地区を守るためとして「必要なあらゆる措置」を講じる権限を盛り込んだ安保理決議1973号を採択した。そして、反体制勢力の拠点であるベンガジをカダフィ軍が取り囲んだことで国際介入の緊急性、必要性が生じたとして、NATO軍による武力介入が実施された。軍事作戦ではカダフィ軍の主要基地、武器が攻撃対象とされた。
この時の国際介入に鑑みれば、アサド政権下で11万人近い死者、および200万人の難民と400万人の国内避難民を出している現在のシリアの人道危機は、化学兵器使用問題に焦点が当たり過ぎているように見える。今日の国際社会において、ある主権国家に対する内政干渉や武力介入が実施されるのは、内戦などで市民が深刻な被害を受けているとき、その主権国家が被害を回避させたり、防止しようとせず、その領域内の人々の「人間の尊厳」が著しく侵害された場合である。そこでは「保護する責任」が「内政不干渉」の原則に優越して実施されるとされている。その法的根拠は、国連憲章24条、国際人道法、人権諸条約上の義務、そしてこれまでの国際慣行に求められている。
化学兵器という大量破壊兵器の使用は、確かに「人間の尊厳」を無視するものであり、許されない行為である。ただし、その行為の犯人探しに時間を費やすことで、人道危機を悪化させてはならない。したがって、シリア情勢においても、カダフィ政権同様に、アサド政権が無辜の市民を無差別に殺害するという軍事行動をとっていること自体を焦点化するべきではないだろうか。
こうした観点からすると、国際社会が賛同できる国際刑事裁判所への人権侵害の事態調査の付託、さらに化学兵器の廃棄とアサド政権への市民保護を求める安保理決議を速やかに採択すべきである。仮に安保理が機能しない場合には、国連の緊急特別総会を開催し、武力介入への支持を求める必要があるだろう。化学兵器使用という事態の深刻さに鑑みれば、武力介入への緊急性、必要性はあると言える。だからこそ、シリア市民をしっかりと保護する法手続きを早急に講じ、正当性を得るべきだと考える。(おわり)
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