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2013-10-09 00:00
批判を免れない松戸殺人事件控訴審判決
玉木 洋
大学教員
10月8日に出された松戸殺人事件控訴審判決は、一審の死刑判決を破棄しての無期懲役だった。「被害者の数が一人」を理由に挙げたのは、永山基準に基づいているのであろう。しかし、永山基準は「総合的に判断」しており、被害者が複数であることを死刑の必要条件としているわけではない。確かに永山事件の被害者は多数であったが、だからと言って、永山基準を前提にすれば被害者が1名では死刑判決を出すことができない、ということではない。そのことは、近年の裁判例でも明らかになっており、それを踏まえて、本件の事情をまさに「総合的に判断」したのが、本件第一審の死刑判決であった。
刑事法の教育の中では、あるいは刑事法学の中では、被告人の利益を重視する傾向が伝統的にあるように思われる。しかし、本件のような悪質な、また冤罪の可能性もない案件で、「被害者が一人に過ぎない」ことを主な理由に死刑を回避するのは、刑法の趣旨にも、永山基準の趣旨にも合致しないと言ってよい。他の犯罪歴をどのように考慮するかは議論のあるところではあるが、多数の凶暴な犯罪を犯している本件被告人に関して、「計画性がないから」といって、これを死刑回避の理由に挙げることは納得しがたい。
確かに、外国で死刑を廃止している国も多く、死刑は冤罪の際に取り返しがつかないことになり、また、死刑に犯罪抑止効果がないという説もあるなど、死刑反対ないし死刑に極めて抑制的な立場の議論もあることは承知している。しかし、現在の法律も、判例も、そのような立場は取っていない。国民の大多数は、死刑制度の存続を望んでいるのであり、過度に死刑に抑制的であるべきではない。
さらに、裁判制度の改革の一環として所要の手続きを経て導入された裁判員制度の導入意義の一つは、このような事件でのこのような国民の常識的な判断からかけ離れた量刑を、法律の趣旨を踏まえつつ国民の常識に近づける、という点にあったと思われる。裁判員制度導入の意義をこの意味で失わせてしまった点においても、この控訴審判決は批判を免れないであろう。
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