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2013-10-18 00:00
政府は核廃棄物の地層処理を早期に進めよ
杉浦 正章
政治評論家
小泉純一郎の“暴走”が止まらない。それもフィンランドの核廃棄物最終処分場施設「オンカロ」を視察した結果を完全に見誤っている。視察に同行した財界人が原発再稼働にプラスと受け取って同調を求めたのに、小泉がこれを拒否して、「原発ゼロ」を唱え始めたのはなぜか。調べてみると、何とフィンランドは小泉の判断とは逆に「原発推進」を目指して処分施設を世界で初めて創設したのだ。小泉はこれを“悪意”をもって曲解しているのである。日本でも処分技術は確立している。問題は場所の選定だ。首相・安倍晋三は10月17日の本会議で「取り組みの強化」を明言したが、国有地や離島などを含めた選定に早期に取り組むべきだ。ニューズウイーク誌などによると、フィンランドが日本や世界各国と異なるのは、先に処分場をつくって、これに合わせて原発を推進しつつある点だ。トイレを先につくって、マンションの建設に取りかかるのである。これなら「トイレなきマンション」などという反原発派のキャッチフレーズは成り立たない。極めて論理的な対応である。原発は既に2基が稼働しており、電力に占める割合は日本より高く、29.6%だ。さらに3基を新設する方向で動いている。
フィンランド国内は世論調査をすれば、今でも原発反対が過半数を占めるが、フィンランドがなぜ原発を推進するかと言えば、その国家戦略が背景にあるからだ。ロシアと海一つ隔てており、歴史上何度も侵略を受けている。ロシアに石油や天然ガスを依存していれば、いつ危機的状態に陥るか知れない。加えて温室効果ガスの問題だ。北辺の地にあるため、地球温暖化で紫外線が降り注ぐ危険が一番大きいとみているのだ。「オンカロ」が操業を開始するのは、2020年であり、2100年代には満杯になる予定だ。フィンランドはその間の80年間の科学技術の進歩にかけているのだ。つまり、核サイクルの確立や再生可能エネルギーを代替エネルギーとして使える技術が確立すると予想しているのだ。この基本戦略を知ってか知らずか、小泉は「原発を経済成長に必要だからといってつくるよりも、同じカネを自然エネルギーに使って、循環型社会をつくる方が建設的じゃないか」とか、「早く方針を出した方が企業も国民も原発ゼロに向かって準備もできる、努力もできる、研究もできる。今こそ原発をゼロにするという方針を政府・自民党が出せば、一気に雰囲気は盛り上がる」と主張し始めたのだ。これは責任ある地位に就いたことのある者とはとても思えない無責任で荒唐無稽な主張だ。いつ実現するか分からない再生可能エネルギーなどに軸足をすべて移した瞬間から国家は破たんする。まさに亡国の主張だ。
小泉は地層処理自体を「危険」と断定しているが、これも科学的知識にかける主張だ。地層処理をする場合は、使用済みの燃料を「ウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物」と、「高レベル核廃棄物」の二つに分離する。そして、後者のプルトニウムを除去した核廃棄物だけを地下300メートルに地層処分するのだ。プルトニウムは別途燃料として活用する。原爆の材料を埋蔵するわけでは全くない。放射能は、時間を経ると減り、1000年で99・95%が消滅する。何億年もかかるというのは完全に放射能がなくなるまでの時間だ。経産相・甘利明が「ピュアで短絡的な部分もある方」と小泉を侮辱したとも取れる発言をしたが、これくらい言っても、小泉は分かる男ではない。しかし、「小泉曲解」を活用する方法はある。それは発言をテコに地層処理候補地の選定を推進することだ。2007年には高知県東洋町が手を挙げたが、町長の独断が災いして、住民の反対運動を招き、失敗した。フランスの場合人口90人の村ビュールに地下試験場を建設しているが、地下では地元住民など400人が働いている。現在は試験場だが将来は地層処理場となる方向だ。日本の場合も過去何億年も動いていない地層のある国有地や離島はいくらでもあり、欠如しているのは政治の決断のみである。
安倍は19日の本会議で地層処分について、「20年以上の調査の結果技術的に実現可能と評価されている」と指摘した。加えて、「それにもかかわらず処分制度を創設して10年以上を経た現在も処分場選定調査に着手できない現状を真摯(し)に受け止めなければならない。国として処分場選定に向けた取り組みの強化を責任もって進めてゆく」と言明、前向き姿勢を鮮明にさせた。小泉発言には一切言及しなかったが、これは小泉の名前を出すことで、一層問題を際立たせる事の損失に配慮したものであろう。無視したのだ。いずれにしても、世界の潮流は「核廃棄物は地層処理しかない」という方向であり、原発再稼働を推進してゆく以上、この方向を選択すべきである。原発問題は今やマスコミの作る風評との戦いだ。歴代政権に欠けているのは、学者や評論家を動員した国民への説得工作である。各地で講演会などを開いて、直接大衆に向け論理的に説明するのだ。「脱原発」に偏重するNHKも、方向を改めさせる方策を検討する必要がある。NHKは社会部主導の報道に引っ張られることなく、特集番組で正しいエネルギー政策の在り方や、その方向性を示すべきだ。政府はこうしたキャンペーンで、正しいエネルギー政策を周知徹底させてゆくことから始めた方がよい。それにしても「小泉曲解」ほどの政治家の判断ミスも珍しい。年を取ったら、九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく)ことを戒めなければならないが、小泉は晩節を汚して恥じることがない。あの軽蔑の対象で、選挙に落ちるところだった元首相・菅直人以上に“菅的”になってきた。
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