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2006-12-20 00:00
嫌われるアメリカの根源をただせ
内田忠男
名古屋外国語大学教授
2006年の年の瀬にあたって、国際情勢で一番気になることは、反米・嫌米の空気が至る所に広がっていることである。本稿では、その状況を詳述するのでなく、根源について辿ってみたい。
1980年代、レーガン政権が唱えた「強いアメリカの再生」が公約通りの実を挙げ、東西の冷戦が終結して、かつてのライバル、ソ連邦という国家までが消滅した。アメリカは一滴の血を流すこともなく、労せずして唯一の超大国となった。冷戦後の新世界秩序の樹立が模索されたが、その時期、インターネットの普及を契機とするIT革命が起こり、アメリカはその先導者・創業者の利益を存分に謳歌して、空前の繁栄を実現した。政治、経済、軍事…すべての面で、アメリカは並ぶものなき一人勝ち状況となり、それに乗じて「グローバル化」を主唱して、自国の価値観を世界中に押し付けることにも成功した。クリントン政権の8年間は、だからアメリカの黄金時代となった。だが、その有頂天がアメリカの傲慢さを生んだ。
やがて21世紀が明け、2001年9月11日の同時テロ攻撃を迎える。いったんは世界の同情を一身に集めたが、「テロとの戦争」を呼号して「アメリカの味方か、テロリストの味方か」と、子供じみた二元論を振りかざしたあたりから、対米感情にさらなる変化が始まった。同時テロの犯人とされるアルカイダが訓練基地を置いたアフガニスタンに攻め込んだまではともかく、湾岸戦争以来の仇敵サダム・フセインのイラクにも侵攻した。「大量破壊兵器を隠し持ち、アルカイダとも密かに連携している」と主張、国連の査察が継続中で、仏、独やカナダ、メキシコまでが反対したにもかかわらず、超大国としての矜持も自制も、かなぐり捨てての先制攻撃だった。開戦前に主張した「大義」はしかし、アメリカ自らの調査で絵空事に過ぎなかったことが判明した。すると今度は「圧制の独裁者サダムを追放して、イラクに民主主義を植え付ける。イラクの民主化はドミノ現象として中東全域に拡大し、世界の安定に計り知れない恩恵を及ぼす」と強弁した。クリントン時代に輪をかける傲岸不遜--。
が、そのイラクは、開戦から4年近くがたつというのに、内戦状態である。インフラ復興は進まず、開戦以来の犠牲者は、米兵の死者だけで9/11のそれを超えた。イラク人の死者となると15万人に上るともいう。アメリカの大義なき戦争で、イラクは独裁時代をはるかに凌ぐ悲劇的な状況に直面し、国際テロの危険性はさらに強まっている。この間アメリカは「何故嫌われるか?」という本源的な問いへの検証を避け続けてきた。イラク戦争を主導したのはネオコンと言われる勢力である。このグループは、ユダヤ系の人々によって発祥した。「アメリカには世界中に民主主義を広めるという使命があり、その障害となる独裁専制国家に対しては先制攻撃も正当性を持ち得る」とする。けれども、その本意がどこにあるかといえば「サダム・フセインのイラクが現実の脅威を及ぼす先にイスラエルがあり、イスラエルの安全のためにはサダムを退治しておく必要がある」ことだった。
いまアメリカへの反発の根源に、このイスラエルへの過剰な肩入れがあると見るのは誤っているだろうか。第2次大戦直後の国連によるパレスチナ分割決議をよそに、ユダヤ人国家として一方的に誕生したイスラエルは、4次にわたる中東戦争を経て、キリスト、イスラム教の聖地も混在するエルサレムを含めたパレスチナのほぼ全域を占有している。国連安保理はイスラエルが戦争で得た領土を放棄して第3次中東戦争前の国境線まで退くべし、と繰り返し決議してきたが、イスラエルは徹頭徹尾これを無視し続けている。数百発の核弾頭を保有していることも国際社会の常識である。これだけのルール無視、国際社会への反抗を続けている国家が他にあるだろうか。これが世界の不安定要因にあらずして、何を指弾し得るか。しかしアメリカは、そのイスラエルを溺愛とも言える姿勢で手厚く支持、支援し続けている。パレスチナの地に公平公正な形で二つの国家を樹立し、その共存のために国際社会が考えられるすべての支援を注ぐ。その先導役を果たすことこそ、唯一の超大国に課せられた最大至高の使命のはずである。
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