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2013-11-17 00:00
日本は米中露のバランサーとなれ
松井 啓
大学講師、元大使
パックス・ブリタニカは19世紀で終焉し、第一次世界大戦後はアメリカが超大国として台頭した。第二次世界大戦後に日本とドイツ(特に日本)の民主化があまりにもスムースに進んだためもあり、アメリカ流の民主主義(人民による、人民のための、人民の政治)を広めようとした一種の十字軍的展開は、ソ連の崩壊により実現されたかに見えた。しかし、第二次世界大戦後のアメリカの軍事介入は全て失敗に終わり(朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争、ユーゴスラビア戦争、アフガニスタン戦争)、アメリカは自信を喪失した。更に「アラブの春」のドミノ現象により中東情勢は不安定化し、アメリカン・スタンダードの自由と民主主義はそのままではグローバル・スタンダードにはなりえないことが証明された。アメリカ国内にあっても、2大政党間のもつれで予算審議、財政危機脱出が順調に進むか危惧されており、軍事予算は節減の方向にある。アメリカの世界戦略転換の一つであるアジア・シフトもアフガン、シリア、エジプト、イランに足を取られて順調に進まず、アメリカは「世界の警察官」の役割を放棄しようとしている。1世紀続いたパックス・アメリカーナは終焉したのである。
日本は明治維新以来、富国強兵のスローガンの下に米英に伍して海洋権益の拡大を図り、ついには「大東亜共栄圏」建設の夢を掲げたが、ハワイの真珠湾攻撃でアメリカに挑戦し、その夢ははかなくもついえた。一方中国は近年、急速に経済成長を遂げ、「中国の夢」(中華大帝国の再建)を掲げ、戦前の日本の後追いのように海軍を増強し、海洋権益を東シナ海、南シナ海へと拡大し、更にはハワイまでも到達し、北極海にまで進出せんとの勢いであり、国際社会の責任ある一員との自覚に欠け、近隣諸国に脅威を与えている。習近平の新体制下で開催された3中全会の方針は、経済改革や民主化の観点からは期待外れのものとなり、国内政治の安定や経済の高度成長を持続させられるのか、危うい事態となっている。他方、ピョートル大帝を尊敬するロシアのプーチン大統領は、あまりにも急激に崩壊したソ連の影響力の回復を狙う傍ら、ヴラジヴォストークを東の玄関にしようとしているが、肝心の経済の近代化やシベリア・極東の開発は遅々として進まず、ロシアはBRICSのメンバーから滑り落ちようとしている。
日本は地政学的に、このような3大強国に囲まれた位置に所在するが、この3国のいずれもが、上記のような弱みを抱えている。当面アメリカが軍事、経済分野で最強国である状況は続こうが、アメリカ一国では処理できない問題が増えてきている。また、ロシアと中国は、領土問題を一応解決し、国際政治の分野では便宜上の協力はしているが、長い国境線に接して、何世紀にも亘り鬱積された相互不信は払拭仕切れず、特に東シベリア・極東開発を進めたいロシアにとっては、中国の人口圧力、北極海への進出は潜在的脅威である。他方日本の政権は、ようやく安定を取り戻し、経済も成長軌道に乗りつつある。今こそ冷戦時代の思考から脱却し、これら3国のバランサーとなり、アセアン諸国に加え韓国、オーストラリア、インド、モンゴル、カザフスタン等の協力を得て、この地域の安定と繁栄に向け積極的イニシアチヴを取るべきである。行く行くは、アジア・太平洋地域の安全保障と経済開発協力を促進する機構を創設する方向で、静かな外交を開始する時期に来ている。
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