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2014-01-15 00:00
(連載2)米国は日中どちらを向いているのか?
鍋嶋 敬三
評論家
米国は日中どちらを向いているのか?国際政治は「奇々怪々」の世界である。古くはヒトラーとスターリンの独ソ不可侵条約(1939年)がある。一週間後にドイツはポーランドに侵攻、第2次世界大戦が火ぶたを切った。米ソ冷戦の最中、「敵の敵は味方」を地で行く1971年7月の米中和解(ニクソン大統領の訪中合意発表)は、日本政府にとって「青天の霹靂(へきれき)」だった。当時の佐藤栄作首相(安倍首相の大叔父)の7月16日の日記には、「牛場(信彦駐米)大使に対しては、発表の僅か2時間ばかり前にロジャーズ(国務)長官から通報を受け」とある。沖縄返還交渉と平行して行われていた日本製繊維製品の対米輸出自主規制交渉で、佐藤首相が「善処」を約束しながら、公約を破ったとニクソン政権の不信感が強く、突然のニクソン訪中発表に佐藤政権は大打撃を受けた。
日本国民はオバマ大統領の強力な支援者であるキャロライン・ケネディ新駐日大使を熱烈に歓迎した。一方、米国では「タカ派でナショナリスト」と目される安倍首相に冷ややかな感情が強まっているように見える。ニューヨーク・タイムズ紙は「沖縄で一歩前進」と題する社説で、「安倍首相の誤った歴史解釈は地域の安全保障に悪影響をもたらすことを米国は首相に警告した。オバマ大統領がこの点をさらに明確にしなければなるまい」と大統領の尻をたたいた。しかし、バイデン副大統領は1ヶ月前、日本に続いて訪問した中国で、習近平国家主席に対して中国が設定した防空識別圏の撤回を求めなかった。米国自身の安全保障にかかわる問題であるにもかかわらず、米国は中国に遠慮しているように見える。米国はどちらを向いているのか?
中国の王外相はケリー米国務長官との電話会談で「新しい形の大国関係」を構築する意向を伝えたのに対して、ケリー長官も同様の考えを示した(中国外務省)と伝えられる。中国の目指すところは太平洋の真ん中で米国と勢力圏を二分し、アジアでの覇権を確立することであろう。東シナ海(尖閣諸島)や南シナ海での急速な軍事進出の背後にそのような戦略的意図がある。米国にとって「核心的利益」は何か。民主主義、自由、人権などの基本的価値観の共有か、それとも経済的利益の追求か。中国の膨張によってその問いが今米国に突きつけられているのだ。
米国は日本(人)が片思いしているほど日本びいきではない。米国にとっては、西へ西へと開拓して太平洋を越えてたどり着いたフロンティアが正に中国という未知の世界だった。米国とは基本的価値観を全く共有しない共産主義独裁国家であるにもかかわらず、米国は中国に対して異質の国への「憧憬」ともいえる気持ちを抱いている。このような潜在的な意識は外交の上でも無視できない。外交は一人芝居ではない。自らの言動が相手にどのようなインパクトを与えるかを、日本の制約要因にならないように深く見抜く洞察力は、指導者の重要な要件である。「世界全体の平和の実現を考える国でありたい」(1月6日記者会見)との決意を披瀝した安倍首相に課せられた責任は重い。(おわり)
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