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2014-03-12 00:00
議員劣化の元凶は小選挙区にある
杉浦 正章
政治評論家
首相側近の右傾化発言が、こだまがこだまを呼ぶように世界中に広がって、いまだに反響が止まらない。一番の問題は首相・安倍晋三が側近発言を「個人の発言」として、否定しないことだ。これが、米国の新聞に疑心暗鬼を呼び、中韓両国に揚げ足を取られる最大の理由であろう。しかし問題の根はもっと深いところにある。それは政治家の質の低下である。首相補佐官・衛藤晟は参院議員だが、総裁特別補佐・萩生田光一は衆議院議員。いずれもレベルの低さは目を被いたくなるが、最近は一般的風潮としてこの種の議員が多い。まるで村議と言えば村議が怒るが、その程度だ。なぜこうなってしまったか。とりわけ衆院議員の劣化に問題がある。その原因は小選挙区制にあるとしか考えられない。「昔は良かった」は年寄りの繰り言じみてくるが、昔の政治家は少なくとも“大物”に見えた。ある特定の分野では官僚も顔負けの知見を有していた議員が多かった。故人となって久しいが、その代表例が自民党の税制調査会長・山中貞則だ。硬骨漢で中曽根内閣当時、税制改革に関して中曽根をバカ、マヌケ呼ばわりしたこともあった。信条として税制に関する限り一切の陳情及び取材を受付けなかった。税調会長当時に選挙区の主要産業である葉タバコや焼酎の増税案が通過しているほどだ。
さらに外交では衆院議員・椎名素夫であろう。アメリカを「日本の番犬」呼ばわりした外相・椎名悦三郎の息子であり、父親に勝るとも劣らない外交通であった。安保・防衛では屈指の論客であり、何よりも重要なのは米国と深い人脈で結ばれていた。米国の知日派ジャパン・ハンドの重鎮であるマイケル・グリーンは、椎名事務所のスタッフであった。こうした人脈を活用して対米工作、ロビー活動を展開した。中曽根とレーガンの「ロン・ヤス関係」を裏で作り上げたのは椎名であった。今こういった大物政治家はいない。日米関係では衆院議員・塩崎恭久あたりが活発に動いており、期待が持てるがまだ力を養っていない。派閥の領袖もさっぱりだめだ。名門宏池会の外相・岸田文男も、存在感が希薄だ。なぜこのように衆院議員が小粒になってしまったかと言えば、紛れもなく選挙制度の欠陥にある。山中や椎名のような人材が育たないのである。なぜ育たないかと言えば、育つ暇がないのだ。まず第一に選挙の度に大量の落選者が出る。小選挙区は「風」で当落が決まるケースが多く、毎回大量に新人議員が当選する。細川チルドレン、小泉チルドレン、小沢チルドレン、そして安倍チルドレンといった具合だ。幻のように現れては消える政治家が何と多いことか。これが育たない元凶ナンバー1だ。
そして元凶ナンバー2は政党のポピュリズム化だ。政党はチルドレンの大量当選を狙って、大衆迎合路線を取る。そして戦後最大の悪夢民主党政権の3年間へとつながるのだ。次ぎに小選挙区は1人を選ぶから、勢い選挙戦が激しくなり、地元に付きっきりにならなければ再選されない。票にならない外交や内政などどうでも良く、もっぱらどぶ板選挙を展開せざるを得なくなる。外交など勉強するひまなどないのが実情だ。一方で比例区は比例区で、執行部の選択に政策重視の視点などあったためしがない。情実やコネ、派閥の事情などが優先で、一大暗愚議員集団を形成してしまっている。衛藤などいい例だ。こうして議員は劣化の一途を辿ってゆくのである。歴史上戦前一度だけ小選挙区が導入された時期がある。原敬が1919年に導入したが、21年に暗殺されて25年には中選挙区になった。現行小選挙区比例代表制導入の理由として、後藤田正晴らは政権交代可能な制度であることをを強調したが、それはイギリスでの話だ。日本で政権交代可能な2大政党時代が到来したのは、中選挙区になってからである。政友会、民政党が政権交代をして2大政党制の時代を築いたのだ。
こう見てくると、どうも日本的政治風土には中選挙区制が似合う気がしてならない。おりから国会は与野党が衆院選挙制度改革をめぐって、有識者による第三者機関を設置して議員定数削減を議論することで合意した。ところがまたもピントを外している。第三者機関では定数削減を最優先するというのだが、一部マスコミに踊らされている。定数を削減して国家予算からすれば微々たる費用を浮かせて何になるかと言うことだ。マスコミは会社のリストラ的な発想から削減を主張するが、日本の国会議員の定数は、主要国に比べて少なすぎるくらいだ。人口100万人あたりの議員数ではスエーデンが38人で最多。イギリス22、カナダ12、ドイツ8人といった順で、日本は5人だ。しかもOECD加盟34か国中国会議員の数は日本が33番目だ。したがってこれ以上議員の数を減らすべきではない。むしろ選挙制度を抜本的に変更して、中選挙区への移行を諮問すべきである。もう小選挙区制の弊害は見すぎるほど見てきた。これ以上、議員を劣化させてはならない。
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