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2014-03-15 00:00
(連載2)ウクライナ問題と国際社会
水口 章
敬愛大学国際学部教授
1979年のソ連のアフガニスタン侵攻は、共産勢力とイスラム勢力の間でアフガンの体制が揺れる中、共産党勢力のカルマル政権の要請により実施された。今回の介入と同様、ソ連は「要請」に基づいていることを正当性の根拠とした。しかし、2つの介入には異なる点がある。例えば、今回のクリミア介入では、軍事的行動を行っているのは「国籍不明の自衛部隊」だとされている点やクリミア議会や住人投票という「民主的手続き」を用いている点などが異なる。また、国際社会も、介入を政治分野の問題に限定し、できるだけスポーツや経済など他の分野にまで対立を広げないよう努めている点は、アフガン侵攻時とは異なる。その背景には冷戦が終焉したことと、それに伴う経済制度の共通化などにより各国間の相互依存度が高まっていることがある。これはロシア側から見れば、天然ガスや鉱物資源がこれまで以上に外交カードとして使える環境だといえる。
しかし、「強いロシア」の復活を目指しているプーチン大統領にとっては、この有効なカード以上のものが必要である。それというのも、ロシアの西正面ではEUが東方に拡大しつつあり、東正面ではTPP交渉が進められているからである。こうした欧米の動きに対抗しうるものとして、プーチン大統領は、独立国家共同体(CIS)の足場を固め、上海経済機構との結びつきを視野に入れた「ユーラシア連合」という経済圏構想を描いていると言われる。米国の国際関係の研究者ケント・E・カルダーは『新大陸主義』(杉田弘毅監訳)で、エネルギーや地政学の観点でユーラシアの発展を捉え、21世紀のユーラシア外交の重要性について指摘している。この見方を参照すると、今回のプーチンの動きの目的は、ウクライナのEUおよびNATOへの接近を阻止することに止まらないことが見えてくる。つまり、ウクライナへの介入は、エネルギー・鉱物資源を国家の管理下で戦略的に使い、「大国ロシア」を復活させるための1つのプロセスだといえるのではないだろうか。
国際社会が抱える難問の一つに「未承認国家」への対応の問題がある。この問題は、今回のウクライナでも見られるように、「領土保全」と「民族自決権」という二つの国際原則が絡む場合は、「領土保全」(現国境の保持)が優先されてきたことが要因となっている。この暗黙の了解を変えたのが、EUと米国による2008年2月のセルビア共和国からのコソヴォ独立の承認である。当時ロシアはこれに強く反発した。2008年8月、立場が逆転した出来事が起きた。ロシアが、アブハジア自治共和国と南オセチア自治共和国のグルジアからの独立を支援したのである。それは冷戦の再開を想起させた。
今後、ウクライナ問題の進展のなかでクリミア自治共和国に続き、他の親ロシア住民地域で独立やロシアへの帰属が表明される蓋然性は高まっている。しかし、ソ連のアフガン侵攻時に米国家安全保障問題担当大統領補佐官だったズビグニュー・ブレジンスキーが、西側陣営の一体化を説くために用いた「ドミノ理論」におけるロシア脅威論が巻き起こる事態にはならないのではないだろうか。国際社会は、冷戦終焉後、アメリカの一極主導外交期を経て多極化外交期に入っている。今回のEU首脳会議でロシアへの対応が穏健路線と強硬路線に割れたことも、それを裏付けている。つまり、国際秩序づくりが難しい時代に入っているといえるだろう。プーチン大統領は、外交戦術として、そこを衝いてきているといえる。では、今後、ウクライナ問題はどうなるのだろうか。(つづく)
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