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2014-03-15 00:00
(連載2)プーチン政権のプロパガンダ五輪とウクライナ危機
河村 洋
外交評論家
ウクライナ危機は、ソチ・オリンピックに見られたようなプーチン氏の大国志向と緊密に関わっている。欧米との地政学的な競合を抱えるロシアにとって、旧ソ連内共和国での影響力を維持することが重要な国益となっている。他方で、今回の日本の対露突出外交はきわめて目を引くものであった。ウクライナは11月より不安定化し始めていたので、プーチン氏の介入は予測できないことでもなかった。明らかに、ソチには多くの政治的な問題があった。欧米諸国の首脳が参加を見送る中、安倍氏が開会式に参列してプーチン氏に対するチアリーディングを行なったことは遺憾である。もちろん、日本がロシアへの接近を模索する理由もわからぬではない。福島原発事故によってエネルギー供給源の多様化を迫られる日本にとって、北極海や東シベリアでの石油や天然ガス開発でのロシアとの提携は魅力あるものだからだ。 地政学的観点からも、日本はロシアの力で高まる一方の中国の拡張主義を抑えようとしている。また、安倍氏は第二次世界大戦後長年の悲願となっている北方領土問題の解決のためにも、ロシアを懐柔する必要があると考えている。岸田文雄外相は3月4日の記者会見でウクライナ情勢のステークホルダーに自制を呼びかけて、ロシアを刺激しないように努めた。反安倍色の強い朝日新聞さえも2月10日の社説でロシアと欧米のバランスをとるという安倍政権の方針に同意している。
しかし、安倍氏がソチで行なったチアリーディングの見返りに日本の安全保障上の要求に応ずるほど、プーチン氏は寛大なのだろうか?確かにロシアは開発の遅れた極東地域への経済的なてこ入れのためにも、日本の資金と石油および天然ガスの輸出市場を必要としている。しかし、プーチン氏の最重要の戦略目的は、パックス・アメリカーナを否定し、ロシアがアメリカと並ぶ核大国であることを主張することである。中国へのカウンターバランスどころか、ロシアは中国とともに上海協力機構を設立して、西側同盟に対抗している。実際に、中国外務省の秦剛報道官は3月2日の記者会見で「欧米もロシアと同様に混乱の責任を負う」と間接的に述べた。2012年に中国が首位に躍り出るまでロシアは日本の領空を最も頻繁に侵犯してきた国であったことを忘れてはならない。また、2010年の大統領在任中に国後島を訪れたドミトリー・メドベージェフ氏よりもプーチン氏が日本に対してより寛容だとはとても思えない。ロシアが北方領土の住民生活施設に投資したということは、クレムリンが領土紛争中の島々にこれからも長く関わってゆくという意思表示である。
独裁者へのチアリーディングではなく、安倍氏は自らが制定したNSS(国家安全保障戦略)で「日本は自由な国際秩序、その価値観、民主主義諸国の同盟を守る」と謳った原則に、忠実に従うべきである。この点からも日本がロシアと欧米のバランスをとれ、という主張は馬鹿げている。イランでは欧米とのバランスをうまくとってIJPCおよびアザデガン油田での日本の商業権益を維持しようとしたが、そうした政策は悉く失敗に終わっている。また、鳩山由紀夫元首相の東アジア共同体によって米中のバランスをとろうという夢も惨めに頓挫している。ウクライナ危機以前においてさえ、プーチン氏に対する安倍氏のチアリーディングは一種の「鳩山化」のように思えてならなかった。安倍氏はソチでプーチン氏と何らかの合意に達したのかもしれないが、それは祝賀ムードの中で決められたものである。ウクライナ危機で白日の下にさらされたプーチン政権の専制的でパワー志向の性質からすれば、彼の訪日によって日米同盟が冷却化するだけで、領土問題でも極東地域の安全保障環境でも進展は望めないと思われる。
NSSの原則に基づけば、日本は親露派民兵の脅威にさらされているクリミア・タタール人にこそ救いの手を差し伸べるべき立場にある。プーチン政権によるクリミア侵攻は、スターリンが第二次世界大戦中に彼らをシベリアや中央アジアに放逐したという悲劇的な歴史を彷彿とさせる。安倍氏の靖国神社参拝によって日米間には不必要な緊張が生じてしまったので、これ以上の緊張は避けねばならない。最後に、IOCに代表される国際的なスポーツ機関は大会の開催都市の選定に当たって政治情勢を考慮すべきである。ソチも北京もオリンピックとパラリンピックを開催するには問題が多すぎた。独裁体制への無批判なチアリーディングなどあってはならない。ソチとウクライナの問題は深く相互関連しているのである。(おわり)
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