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2014-03-16 00:00
(連載3)ウクライナ問題と国際社会
水口 章
敬愛大学国際学部教授
ウクライナはソ連崩壊時に、ロシア、ベラルーシとともに独立国家共同体(CIS)の創立を宣言した国である。その後12カ国にまで拡大しCISは、親ロシア派の関税同盟グループと反ロシアのGUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)とに大別される。これまで見てきたように、経済ファーストの政策をとるプーチン大統領は、対ウクライナ政策で債務の支払要求や天然ガス代金の値上げ、ウクライナの生産物の輸入禁止などの経済圧力と、ウクライナ国内の新ロシア住民を煽っての市民抗議行動で揺さぶりをかけ続けるだろう。ウクライナは、自国のエネルギー安全保障の確保をはじめ経済力、軍事力の面でEUやNATOへの加入レベルに達していない。このため、EUは東方パートナーシップ(連合協定)によって、経済的・政治的影響力を広げようとしてきた。しかし、この連合協定はロシアの圧力で、2012年11月に調印が停止した。
仮にクリミア自治共和国のロシアへの帰属が現実のものとなると、1997年にロシア・ウクライナ間で調印された「友好・協力・パートナーシップ条約」(両国の領土の一体性、国境不可侵、内政不干渉を明記)や、ロシアの黒海艦隊の駐留条件をまとめた諸協定(ウクライナ法令遵守、基地賃借料、環境破壊保障費など)が効力を失うことも考えられる。現在、ウクライナ暫定政府は「領土保全」の立場で、国境変更の国民投票はウクライナ全国民によるものでない限り無効であると主張している。しかし、ロシアは国籍不明の部隊を撤退させ、セヴァストポリ基地の駐留ロシア軍をベースにクリミアの事実上の支配を続けるだろう。そして、プーチン政権は国際的外交圧力をかわしつつ、基地賃借料や環境破壊保障費は支払わないまま、天然ガス使用料を暫定政府に要求し続け、EUと米国がウクライナへの経済的支援を続けられない状況をつくっていくだろう。こうした一連の戦術は、ウクライナをユーラシア連合に加盟させるという戦略のもとで行われると考えられる。
トルコのダウトオール外相の敏速なキエフ訪問は、必然性の高いものだったといえる。それは、ボスポラス海峡を有するトルコがロシアの黒海艦隊の展開に大きな影響力を持っている点、クリミアのタタール人の保護の問題、クルド民族の未承認国家問題などトルコ自身の関心事項が多いことが理由である。また、国際環境の面から見ても、オバマ政権がアラブ諸国で見られた政変(通称「アラブの春」)、シリア内戦、イラン核問題などの政策で失敗し、米国の国際的信用が失墜しているという状況にある。つまり、欧米との調整よりもまず自身の判断でこの問題に対応する必要性がある。一方、ロシアは1990年代後半から中国、インドとの連携を強め、2003年5月の中ロ首脳会談の共同声明で米国の一国主義的な外交を批判し、反米的姿勢を強めてきた。そして、シリア問題で見られたように、中国が国連安保理でロシアとの協調姿勢をとることで、国連のもとでの国際秩序づくりが難しくなっている。
こうした状況下、トルコの政権の担い手は、国益、市民からの民主化・自由化圧力を睨みつつ、どのように国際協調を行っていくか難しい選択に迫られている。これは、他の中東諸国も同様である。第1のハードルは、対ロシア経済制裁だろう。今回の問題は、オバマ政権が外交をアジアに「ピボット」させると表明する中で起きている。EUや中東の親米政権にとっては、短期的視野での安全保障政策を含む対米国関係と、長期的視野でのユーラシアを一体とする経済圏構想への係わりをどうバランスさせるかの分岐点になるかもしれない。日本の対外政策においても、単に米国との政策協調やロシアとの領土問題を配慮したものではなく、中・ロが手を結んだユーラシア連合の形成を見据え、中・長期的戦略のもとで政策形成がなされることが望まれる。(おわり)
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